多くの人の勘違いは、相手の気持ちを動かしたり、決断を促すためには「説明」や「説得」が不可欠だと考えている点です。また、丁寧に説明することこそが誠意の表れであり、自分の仕事の基本スタンスであると信じています。確かにある一面でそれは真理です。しかし、相手の立場や感情を理解せず、ただ一方的に「説明」するだけでは、むしろ不誠実といえるでしょう。そして、そのようなコミュニケーションは、信頼を損ね、成果を遠ざけてしまいます。「伝えること」と「伝わること」は、決して同義ではありません。そして時には、後者を実現するため、あえて前者を手放す勇気が求められるのです。
かつて、人々が情報を渇望していた時代には、「説明」は歓迎されました。人々は情報を求めてそれに耳を傾けていたのです。しかし現代社会は、テレビ、新聞などのオールドメディアに加え、インターネット、SNSなど、あらゆる媒体から押し寄せる洪水のような情報に、私たちは日々晒されています。その結果、この過剰な情報量が逆に人々の判断力や理解力を鈍らせるという皮肉な状況が生まれています。こうした「情報氾濫」の時代においては、不要な情報を排除し、本当に必要で信頼できる情報だけを選び抜く能力が重要になっています。従って、たとえあなたの説明がどれだけ的を射たものであったとしても、相手にとって関心がなく、価値を感じられないものであれば、それは単なる“ノイズ”でしかないのです。