【説明しない勇気25】なぜ「やっぱり無理でしょうか?」と聞くと処方が決まるのか?心理学が証明する、MRのための否定疑問文話法

「断られたらどうしよう」という不安を消し去る、クロージングの魔法

製薬業界でMRやMSLとして活動していると、面会の終盤に必ずと言っていいほど訪れる「あの瞬間」に頭を悩ませたことはありませんか?

「この先生に処方の依頼をするのは、少し押し付けがましいのではないか……」 「今、WEB講演会の視聴をお願いしたら、忙しいと一蹴されるのではないか……」

私自身、製薬会社の最前線にいた頃は、提案の一歩手前で何度もためらいました。特に、気難しい先生や多忙を極める先生を前にすると、こちらの意図が見透かされるのが怖くて、結局肝心な一言を言えないまま「本日はありがとうございました」と医局を後にしてしまう。そんな「不完全燃焼」の面会を数えきれないほど経験してきました。

しかし、多くの交渉現場を分析し、コンサルタントとして数々の成功事例を見てきた中で、ある画期的な「伝え方」にたどり着きました。それは、ストレートに迫るのではなく、あえて「引き」の姿勢を見せることで相手のYESを引き出す技術です。

今回は、強引さを一切感じさせずに、医師の「心の隙間」に自然に入り込むクロージング話法をご紹介します。

 

心理的ハードルを下げる「否定疑問文話法」の正体

面会で何かを提案する際、私たちが最も恐れるのは相手の「心理的リアクタンス(抵抗)」です。人間は、他人から何かを強制されたり、自由を奪われたりすると、無意識に反発したくなる性質を持っています。

そこで有効なのが、「否定疑問文話法」です。

これは、自分がしてほしいことを、あえて「否定形」っぽく尋ねる話法です。具体的にどのような言い回しになるか、例を挙げてみましょう。

  • ストレートな依頼:「先生、次の症例でこの薬剤をぜひ処方してください」
  • 否定疑問文話法:「先生、次の症例でこの薬剤をご処方いただくのは、やっぱり難しいでしょうか?

このように表現を変えるだけで、印象は劇的に変わります。ストレートな表現が「一方的な要求」に聞こえるのに対し、否定疑問文は「相手の状況を配慮した控えめな確認」として響きます。

心理学的に見ると、否定形で問いかけられることで、相手は「NOと言う権利」を保証されていると感じます。この「判断の余地」が与えられることで心理的圧力が軽減され、逆に「いや、そこまで難しいわけではないよ」「それくらいならいいよ」という、受け入れのハードルを下げる効果が生まれるのです。

 

「共に考える姿勢」が信頼関係を加速させる

この話法の真の強みは、単なるテクニックを超えて、「私は先生の立場を尊重しています」という敬意のメッセージが非言語的に伝わる点にあります。

特に、以下のようなニュアンスを付け加えると、さらに効果的です。

「私の提案には、やはり無理があるでしょうか?

「私の考えは、少し飛躍し過ぎでしょうか?

これらの言葉には、「先生のご都合やこれまでの治療方針があることは重々承知していますが……」という配慮が内包されています。

例えば、WEB講演会の視聴依頼であれば、「来週の講演会、ぜひ聴講してください」と言う代わりに、「来週のWEB講演会、お忙しい中でお時間を頂くのは、やっぱり難しいでしょうか?」と尋ねてみてください。

もし先生が「忙しいんだよ」と仰ったとしても、それはもともと断られる可能性が高かったケースです。しかし、この聞き方であれば「先生のお忙しさを理解しています」という共感の姿勢は伝わっているため、関係性が悪化することはありません。むしろ、この一言があることで「そこまで言うなら、オンデマンドなら見られるかな」といった代案を引き出しやすくなるのです。

 

言葉一つで、ディテーリングの成果は変わる

製薬業界の営業やコミュニケーションにおいて、最も重要なのは「一方的な説得」ではなく「双方向の納得」です。

「否定疑問文話法」は、お願いごとのクロージングだけでなく、センシティブな質問をしたいときや、相手の真意を確認したいときにも絶大な威力を発揮します。強く迫らずに、相手の意思を優しく確認する。この積み重ねが、医師との深い信頼関係を築く土台となります。

もし、明日からの面会で提案にためらいを感じる場面があったら、ぜひこの「否定疑問文」を思い出してください。あなたの「伝え方」の引き出しを一つ増やすだけで、面会の質は驚くほど変わり、成果へと繋がっていくはずです。

「説明する勇気」から、相手の心に「寄り添う勇気」へ。言葉の力を味方につけて、明日からのディテーリングをより豊かなものに変えていきましょう。

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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