【説明しない勇気30】なぜ、あなたの提案は部下や上司に届かないのか?組織の「動かない」を解決する質問型コミュニケーションの極意
指示が空回りし、提案が通らない「社内コミュニケーション」の壁
製薬業界でMRやMSLとして活動している皆さんも、あるいはチームを率いるマネージャーの方々も、医師との面談だけでなく「社内の人間関係」に頭を悩ませたことが一度はあるはずです。
部下に良かれと思ってアドバイスしたのに、返ってくるのは「わかりました」という生返事だけ。結局、行動は何も変わっていない……
そんな時に有効なのが、思考のプロセスを5つのステップに分解する「質問型交渉術」のアプローチです。前回お伝えしたこの5ステップを、あらためて振り返ってみましょう。
現状:「今はどんな状況?」
欲求:「そんな中で、解決したいことは何?」
解決策:「そのために、今は具体的にどんな取り組みをしている?これまでは?今後は?」
欲求の再確認:「もしその課題が解決できれば、どんな良い変化があると思う? 逆にこのままの状態が続くのは、自分としてどうかな?」
提案:「それなら、一つ私からアドバイスがあるんだけど、聞いてみるかい?」
最初の1〜4のステップは、相手に自ら気づきを与える「コーチング」であり、最後の5ステップ目(提案)で初めて「ティーチング」へと移ります。
この手順を踏むことで、あなたの指導は、乾いたスポンジが水を吸うように、驚くほどスムーズに部下へと吸収されていきます。この順序を守るだけで、部下の行動へのコミットメントは格段に高まるのです。
「なぜ?」「たとえば?」「ということは?」の三つ道具
質問を効果的に展開するには、次の3つの問いかけをセットで使うのがコツです。
「なぜ?」:背景を問い、思考を深掘りする
「たとえば?」:具体例を出し、抽象的な話を現実的にする
「ということは?」:相手に要約を促し、認識のズレがないか確認・整理する
これらを駆使して対話を進めれば、部下は「自分で課題を見つけ、答えに辿り着いた」という達成感を得られます。
適切なタイミングでこれらの問いを繰り返すと、相手の思考の流れが自然に整理されていきます。そこで初めて提案を行うことで、それは「上からの押し付け」ではなく、共にゴールを目指す“協働的な支援”として受け入れられるのです。
上司の懐に飛び込む「好意・質問・共感」のプロセス
この「質問型」の技術は、部下に対してだけでなく、上司に対しても絶大な威力を発揮します。特に上司に提案を通したいとき、いきなり「私の意見を聞いてください」と切り出すのは得策ではありません。
まずは「好意(リスペクト)」を持って接することから始めましょう。
上司の指示や現在の判断の背景を、まずは「質問」で丁寧に確認します。そして「なるほど、さすがですね!」と「共感」を示す。このプロセスを挟むだけで、上司は「この部下は私の立場を理解しようとしている」という安心感を抱きます。
この信頼の土壌を耕した上で、先ほどの「三つの道具」を使ってみてください。
「なぜ?」:上司の考えの根底にある理由を深く理解しにいく。
「たとえば?」:曖昧な指示を具体化し、認識のズレをなくす。
「ということは?」:話を整理し、共通のゴールを再確認する。
対話をこのように進めると、上司は「自分の考えを理解している」と感じ、あなたへの警戒心も解けていきます。その流れの中で、「ということは、こういう案はいかがでしょうか?」と問いの形で提案を差し込んでみてください。
それは、上司の目的を達成するための「建設的な提案」として届くはずです。
問いの姿勢が「自律的な組織」を創り上げる
質問型のコミュニケーションの本質は、単なる話法のテクニックではありません。それは「相手の内側から、考える・気づく・動きたくなる状態を引き出す」という、相手への深い敬意に基づいた姿勢そのものです。
MRが医師との信頼関係を築くディテーリングのスキルは、そのまま社内のマネジメントやプロジェクト推進にも転用できる「一生モノの武器」になります。言葉で相手を操作しようとするのではなく、問いによって相手の可能性を信じて待つ。この習慣が組織全体に浸透すれば、指示待ち人間は消え、自ら考えて動く自律的なチームへと変貌を遂げます。
まずは明日の1 on 1や会議で、アドバイスを言いたくなる気持ちをグッとこらえ、「今の状況を、どう感じていますか?」と問いかけることから始めてみてください。あなたの「問いの姿勢」が、停滞していた組織の空気を劇的に変えるきっかけになるはずです。
実務で役立つ具体的な「問い」のバリエーションや、さらに深い交渉術についても、ぜひ継続して取り組んでいきましょう。あなたのコミュニケーションの質が変われば、組織の結果は必ずついてきます。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
