|

【説明しない勇気34】医師の心に届く「言葉の重み」はどう作る?トップMRが無意識にやっている面会直前の“儀式”

なぜ、同じデータを示しても「響く人」と「響かない人」がいるのか

製薬業界のMRやMSLの皆さんなら、一度はこんな疑問を抱いたことがないでしょうか。 「自分とあの先輩、使っている資材も伝えているエビデンスも同じはずなのに、なぜか先生の反応が全く違う……」

一生懸命に準備したディテーリング。しかし、先生の反応は薄く、「資料だけ置いておいて」「また今度検討しておくよ」という、実質的なお断りの言葉で面会が終わってしまう。そんな時、私たちはつい「資料の使い方が悪かったのか?」「最新の知見が足りなかったのか?」と、情報の「中身」ばかりを反省してしまいがちです。

私自身、製薬業界の現場にいた頃、あるカリスマ支店長と同行した際に衝撃を受けたことがあります。その支店長が医局のドアをノックする直前、放つ空気が一瞬で変わったのです。まるで何かのスイッチを入れたかのような、圧倒的な存在感と誠実さ。

実は、交渉や情報提供の成否は、実際に相手と会う「前」に、自分自身の「心のコンディション」をどこまで高められているかで、すでに決まっているのです。

 

一流が実践する「心のセットアップ」:言葉に魂を宿すルーティン

多くの成功したビジネスマンや伝説的な営業マンは、大事な交渉の前に、まるで“儀式”のようなルーティンを実践しています。

たとえば、起業当初の楽天の三木谷浩史氏が飛び込み営業の前に腕立て伏せをして気合を入れていた話や、営業の神様と言われた加賀田晃氏が「好感の持てる熱心な営業マン!」と声に出して潜在意識を書き換えていた話は有名です。また、私の師匠でもある営業教育の第一人者、質問型営業®開発者の青木毅先生は、大切な講演の前に「愛」や「お役立ちの精神」を説いた名著を朗読し、自らの精神を整えるといいます。

私自身も現役時代、都会の雑踏の中で「好感の持てる熱心な営業部長!」と密かに、しかし力強く声を張り上げてから病院に向かっていました。時には部下の車の中で、自らの使命感を再確認するための文章を朗読したこともあります。

これらは単なる精神論ではありません。心理学的にも、自分の「状態(ステート)」を意図的に作ることは、表情、声のトーン、姿勢に劇的な変化をもたらします。 相手は、あなたの「言葉」を聴いていると同時に、その言葉の背景にある「確信」や「誠実さ」を無意識に感じ取っています。自分自身の腹に落ちていない、ただの決まり文句は、プロフェッショナルである医師の心には決して届きません。心の奥底から出た“魂の声”だけが、相手の警戒心を解き、信頼感に基づく有意義なやり取りを可能にするのです。

 

面会直前の3分間でできる、最強の「自分づくり」

では、具体的にどのような準備をすべきでしょうか。資料の確認はもちろん大切ですが、明日からの訪問でぜひ取り入れてほしいのが「在り方」を整える3分間です。

「お役立ちの精神」を言語化する:

「今日、私はこの情報を通じて、先生とその先にいる患者さんのどんな悩みを解決したいのか?」を自分に問いかけます。

肯定的なセルフワーク:

 車の中や人目のない場所で、「好感のもてる熱心なMR!」とこぶしを握って大声で5回叫んでみてください。声に出すことで、脳はその状態に自分を適応させようとします。

フィジカルからのアプローチ:

 深呼吸を3回行い、背筋を伸ばす。たったそれだけで、脳内ホルモンのバランスが変わり、自信に満ちたオーラが生まれます。

交渉術とは、テクニックだけを指すのではありません。「何を信じ、どんな心構えで臨むか」という準備が、言葉を超えた「説得力」となって現れます。もし、あなたが先生に「検討しておきます」と距離を置かれることが多いと感じているなら、それはスキル不足ではなく、面会前の「自分自身の整え方」に伸びしろがあるサインかもしれません。

 

交渉の9割は「会う前」に終わっている

製薬業界におけるコミュニケーションの質を左右するのは、究極的には「人と人との信頼のやりとり」です。その質を劇的に高めるのは、ディテーリングのテクニック以前に、どれだけ真剣に「心の準備」に向き合ったかという一点に尽きます。

あなたが発する言葉に重みが宿り、先生が「この人の話なら、少し真剣に聞いてみようか」と感じる瞬間。それは、あなたが自分自身のコンディションを最高に高めた結果として訪れます。

「説明しない勇気」を持つためには、まず自分自身がその提案に100%の確信を持っている必要があります。ぜひ、日々のビジネスの中に、自分なりの“必勝ルーティン”を取り入れてみてください。その準備力こそが、あなたを単なる情報提供者から、医師にとってかけがえのないパートナーへと引き上げる強力な武器になるはずです。

もし、「具体的にどのようなマインドセットを組めば、苦手な先生との対話がスムーズになるのか」と悩まれているなら、私と一緒にあなただけのルーティンを作り上げていきましょう。心のコンディションが整えば、あなたの交渉術は次のステージへと進化します。

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

\ 最新情報をチェック /

    類似投稿

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です