【説明しない勇気38】お世辞はいらない。医師の心の扉をひらく「共感の○○○○○」と、信頼を生むほめ方の作法
「検討しておきます」の壁を崩せない理由
製薬業界のMRやMSLとして活動する中で、こんな経験はありませんか? 一生懸命エビデンスを説明しても、先生の反応がどこか冷ややかだったり、最後には決まって「忙しいから資料を置いておいて。また検討しておくよ」と体よく切り上げられてしまったり……。
かつての私もそうでした。何とかして懐に入ろうと、最新の学術情報を武器に武装して医局へ向かうのですが、肝心の先生の本音にたどり着けない。関係性が浅いままだから、踏み込んだディテーリングもできない。そんなもどかしさを抱えながら、多くの先生と「事務的な会話」だけで終わっていた時期があります。
実は、医師というプロフェッショナルな方々ほど、一方的な説明や見え透いたお世辞を嫌います。彼らが求めているのは、自分の取り組みや価値観を正しく理解し、尊重してくれるパートナーです。その信頼の架け橋となるのが、テクニックではない「真のほめる力」なのです。
医師の「光」を言葉にする。信頼を勝ち取る5つのポイント
「ほめる」という言葉の語源をご存知でしょうか。それは「光を言う」こと。つまり、相手の中にある価値や魅力という“光”を見つけ、それを言葉にして伝えることが本質なのです。 特にKOL(キー・オピニオン・リーダー)と呼ばれる先生方は、自らの知見や臨床経験に強い誇りを持っています。そこに響く「ほめ方」には、次の5つの視点が欠かせません。
小さな事実を見逃さない
「先生、先日の講演会でのあの一言、非常に感銘を受けました」など、些細な変化や事実に気づくこと。
貢献を具体的に伝える
「先生のあのご指摘のおかげで、社内のプロジェクトが大きく前進しました」と、どう役立ったかを伝えます。
第三者の声を借りる
「他施設の先生も、先生の手技についてこうおっしゃっていました」と伝えると、客観性が増し、嫌味なく響きます。
主観的にほめ切る
「少なくとも私は、今の先生のお話に救われる患者さんが多いと確信しました」と、自分の率直な気持ちを伝えます。
偶然をほめる
たまたまの好結果に対しても「さすがですね!」と一言添えるだけで、共感のメッセージになります。
これらは単なるお世辞ではありません。心理学で言う「承認欲求」を、誠実なまなざしで満たすプロセスなのです。
魔法のフレーズ「共感のさしすせそ」で空気を変える
「気の利いた言葉が浮かばない」という方におすすめしたいのが、即実践できる「共感のさしすせそ」です。これは日常のディテーリングや社内連携ですぐに使える最強の武器になります。
「さ」=さすがですね!(専門性をリスペクトする)
「し」=知らなかったです!(教えを請う姿勢を示す)
「す」=すごいですね!/素晴らしいですね!(素直な感動を伝える)
「せ」=センスいいですね!/(先生、)ありがとうございます!(感謝を忘れない)
「そ」=そうなんですね!(深い共感と傾聴を示す)
たとえば、先生の鋭い指摘に対して「知らなかったです。非常に勉強になります!」と返せば、謙虚に学ぶ姿勢が伝わり、会話はさらに弾みます。大切なのは「本当にそう思ったときだけ使う」こと。目を見て、うなずきながら心を込めて伝えることで、言葉は“まごころ”として先生の心に届きます。
競合品をあえて「ほめる」ことで生まれる余裕
営業の現場で避けられないのが「競合品との比較」です。ここでつい競合を否定したくなるのが人情ですが、実はあえて「競合品をほめる」ことこそが、交渉における一流の振る舞いです。
医師がその薬剤を使っているのには、必ず理由があります。競合を否定することは、暗に「先生の選択」を否定することになりかねません。「あの薬剤も〇〇の面では素晴らしいですよね」と一度肯定したうえで、「先生はどのあたりに価値を感じておられるのですか?」と質問する。
相手の判断を尊重する姿勢を見せることで、敵対心は消え、建設的な対話が始まります。敵を賞賛すれば、それはやがて味方になる。これは製薬業界の交渉術における一つの真理です。
相手の価値を見つける「姿勢」こそが最強の武器
「ほめる」とは、相手の中にある素晴らしい点を見つけようとする「決意」でもあります。 「この先生のここが素晴らしい」と心から感じたとき、その思いを素直に言葉にする。それだけで、あなたの言葉は相手の脳に深く残り、信頼関係の質が劇的に変わります。
これは社内コミュニケーションでも同じです。部下の小さな成長、上司のさりげない配慮、他部門のサポート。それらを「さしすせそ」で認め合うことが、組織の自律性を高めることにも繋がります。
まずは今日、あなたが面会する先生や、隣に座っている同僚の「光」を一つ見つけてみませんか?その一言が、大きな信頼へとつながる最初の一歩になるはずです。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
