説明しない勇気 10
「診療科」ごとの医師と特徴を考えたことありますか?
MRやMSLのみなさんなら、訪問する診療科によって医師のキャラクターが違うと感じたことがあるのではないでしょうか?
私も現役時代、ある診療科ではテンポよく会話できたかと思えば、他の科ではロジックが甘いと一蹴されたり、また結論を先に言うように指摘されたり…
面談の雰囲気や進行の仕方は診療科によってまったく違うと感じることがありました。
この違いに気づいていれば、面談の成功確率は高くなると私は考えています。
診療科が異なれば、医師の“話の聴き方”も違う
実は、医師の性格やコミュニケーションのスタイルは、その医師の専門である診療科に大きく影響されます。
なぜなら、その医師が「なぜその診療科を選んだのか?」という根本的な動機もその医師の性格や考え方に関係しているでしょうし、また日々の診療環境や業務のスピード感、求められる判断力や対人関係によって、思考パターンが自然と形成されていくからです。
私が面会してきた医師との様々な相談やディスカッションを振り返ると、たとえば外科系の医師との話はテンポよく要点を示すことが必要であったり、循環器系の医師の場合はエビデンス重視の論理的な会話が重要となったり、眼科の医師は感覚的なセンスを重視されたりと一定の傾向があるように思いました。
これらの傾向は当然、すべての医師に当てはまるわけではありませんが、それぞれの診療科での傾向が分かっていれば、ファーストコンタクトでの“つかみ”を成功させるためには非常に役立ちます。
そして、診療科別の思考パターンを知ることは、話題の順番や質問の切り口を最適化するための重要なヒントにもなるのです。
「あなたがその診療科の医師だったら?」と想像してみる
ここからは、もう一歩深掘りした話です。
私がお伝えしたいのは、「医師の立場に立って、なぜその反応になるのかを想像してみる」ことの重要性です。
たとえば外科の先生が、こちらの説明に途中で割って入ってきたとします。こういう時、多くの若手MRは「拒絶された」と感じてしまうのです。しかし、実はこれは“外科的”な思考特性が出ただけなのかも知れません。
外科の先生方は、日常的に時間との戦いの中で瞬時に判断し、決断を下しています。だからこそ、話が冗長になると本能的にカットインしたくなる。それを「拒絶」と受け取るのではなく、「この先生には要点をまとめて結論から伝える方が合うんだな」と理解できるようになると、面談はスムーズになります。
逆に、たとえば内分泌系の先生のように長期治療を重視するドクターに対しては、短時間で完結しようとすると逆効果の場合もあります。むしろ、「このMRは腰を据えて対話できる人だ」と感じてもらえるかどうかが、関係性を深める鍵になります。
このように、「診療科別の特性 × 個々の人柄 × 面談の目的」という三軸を意識して組み立てることで、コミュニケーションは格段に洗練されていきます。
診療科に合わせた“話法の切り替え”が信頼構築の第一歩
医師への情報提供活動の場面で、もっとも重要なのは“聞いてもらえる空気”をつくることです。
「この人と話す価値がある」
「この人は、自分の立場を理解してくれている」
そう思ってもらえれば、たとえ製品の話に入れなくても、それは確実に次につながります。
そのためには、医師の診療科によって“接し方”を変える意識を持つ必要があります。これは押しつけでも演技でもなく、相手を尊重するための調整力=交渉術だと、私は考えています。
MR・MSLが現場で成果を出し、信頼を築くためには、こうした柔軟な“診療科別コミュニケーション”の意識が、これからますます求められていくでしょう。
面談の前に、相手の診療科と特性を少しだけ意識してみる―その小さな一歩が、あなたの交渉力を飛躍的に高めるはずです。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
