【説明しない勇気 13】「好かれよう」とするのをやめれば、医師の本音は引き出せる。信頼を築く「好意・質問・共感」のサイクル
第一印象がすべてを決める?面談が始まる前に勝負はついている
「先生と会っても、なかなか本音を引き出せない」
「話を切り上げられてしまう…」
「丁寧に説明したつもりなのに“売り込み”だと思われていた…」
MRやMSLとして活動する中で、こうした“手応えのなさ”に直面した経験は誰しもあるのではないでしょうか。私自身、駆け出しの頃には名刺交換した瞬間から「忙しいからこの人の話は早く終わらせよう」という空気を感じたことが何度もあります。
面談の内容以前に、「この人とは話したくない」と無意識に判断されてしまえば、どんなに優れた情報や提案を用意していても、交渉の土俵にすら立てません。
交渉術を磨く上で、第一印象――とりわけ「好意」――は、極めて重要なスタートラインになるのです。
好意・質問・共感のサイクルが“対話”を生む
私がこれまで多数のMRと同行し、全国の医師――大学教授や開業医、学会の要職にある先生方まで――と対面してきた中で、共通して感じることがあります。それは「医師は極めて短時間で、相手を“見抜いて”いる」ということです。
医師は日々、何人もの情報提供者と接しています。限られた時間の中で、「信頼に足る相手かどうか」を瞬時に判断しなければならない。これはもう、反射的なスキルに近いものです。
その中で最も重視されているのが“感情の印象”、つまり「この人は自分に好意を持って接してくれているか?」という感覚です。
MR・MSL側の視点で言えば、いきなり製品の話に入る前に、「この先生のために来ている」という姿勢がにじみ出ているかどうか。これが、質問型交渉術を効果的に機能させる鍵になります。
私は「好意 → 質問 → 共感」のサイクルを常に意識しています。
- 好意を持って向き合うことで、安心の空気をつくる
- 質問によって関心を探り、相手の考えを引き出す
- 共感を示しながら、次の対話へつなげる
この一連の流れが自然にできると、医師との“対話の質”が大きく変わってきます。最初に心を開いてもらえるかどうかは、テクニックではなく「こちらのマインドセット」にかかっているのです。
「好かれよう」とするほど、信頼を失うという逆説
意外に思われるかもしれませんが、「先生に好かれよう」とする態度は、信頼関係の構築にはマイナスに働くことが多いです。
これは私自身、何人ものMRと同行する中で痛感してきました。
たとえば、医師に気に入られたいという思いが強いあまり、言いたいことが言えなくなる、NOが言えなくなる、提案の軸がブレる――こうなると、MRの立場はどんどん「お願い営業」「下手(したて)交渉」になってしまいます。
逆に、こちらが医師を尊重し、好奇心を持って接し、「この人の役に立ちたい」と心から思っているときはどうでしょう?
面談時の表情や声のトーン、身振り手振り、立ち居振る舞い…すべてが自然と柔らかくなり、「このMRは売り込みではなく、協力者として来ている」と受け取られるようになります。
好意を持って接すれば、相手の心は開きやすくなります。一方で「好かれよう」とすれば、裏にある“下心”を医師は鋭く感じ取ってしまうのです。
医師に「好かれる」より、「好きになる」ことで信頼が生まれる
では、実際にどうすれば“好意”を自然に表現できるのでしょうか?
私が面会前に意識しているのは、いくつかのパターンの「好意」のマインドセットです。
このパターンのどれか一つを自分の中にインストールしてから面談に臨むと、驚くほど自然に好意的な空気を纏うことができます。
そして、これは不思議なことに、相手にも確実に伝わります。言葉ではなく、表情や空気感で。
「この人となら、話してみようかな」
そう感じてもらえれば、質問も、情報提供も、すべてがスムーズに流れ始めます。
本当に大切なのは、「この人のお役に立ちたい」という想いを持ち続けること。これさえあれば、時には医師に対して「それは難しいかもしれません」と、必要なNOを伝える勇気も持てます。
そのNOこそが、相手に「この人は信頼できる」と思わせる分岐点になるのです。
好意のない質問は、ただの尋問になる
質問型の営業や交渉術が注目される中、つい「質問さえすればうまくいく」と思ってしまいがちです。しかし、質問には“土台”が必要です。その土台こそが、「好意」です。
- 質問の前に、相手へのリスペクトがあるか?
- 共感の意志があるか?
- 本当にこの人の力になりたいと思っているか?
この感情が欠けていると、どんなに言葉を選んでも質問は“詰問”に聞こえてしまいます。医師の警戒心を解くのは、質問内容の巧みさではなく、質問に込められた感情の方向性です。
好意を土台にした質問は、信頼を生みます。信頼のある対話は、深いニーズを引き出し、製薬パーソンとしてのあなたの価値を高めてくれます。
心から相手を思う姿勢が、対話の未来を変える
信頼関係の起点は、技術ではなく「人としての姿勢」にあります。
医師に「好かれよう」とするのではなく、あなた自身が「医師を好きになる」こと。
そのうえで「お役に立ちたい」と心から思うこと。
この状態で臨む面談は、たとえ話す時間が3分だったとしても、医師との関係性に確かな“種”を蒔くことができます。そしてその種は、次の面談で芽吹き、やがて実を結びます。
交渉術とは、戦う技術ではなく、信頼を耕す技術です。
今日から、「好意」を土台にしたコミュニケーションを、あなたの現場に取り入れてみてください。その変化は、想像以上に大きいはずです。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
