【説明しない勇気19】医師の本音に切り込む「3つの魔法のキーワード」
面談の質を劇的に変える質問の技術
製薬業界でMRやMSLとして活動する中で、「先生との会話がいつも表面的な情報交換だけで終わってしまう」「せっかく時間をいただいたのに、手応えがないまま医局を後にしてしまう」といった悩みを抱えていませんか?
私自身、製薬業界の最前線にいた駆け出しの頃は、用意した資料の説明をこなすことで精一杯でした。先生が「うーん、そうだね」と一言発しても、そこからどう話を広げればいいのか分からず、沈黙を恐れてまた次の説明を始めてしまう……。そんな空回りの日々を過ごした経験があります。
実は、医師とのコミュニケーションにおいて「聞き上手」になるために、難しい専門知識や天性のトーク術は必要ありません。大切なのは、相手の思考を整理し、本音を引き出すための「質問の方向性」を理解することです。
今回は、どんなに多忙で気難しい先生が相手でも、面談を「共創の場」へと進化させる3つの魔法のキーワードをご紹介します。
対話を立体的に操る:「深掘り・発散・収束」の3方向
質問とは、単に情報を聞き出すための手段ではなく、相手の頭の中を整理する「道具」です。プロの交渉現場では、質問を以下の「3つの方向」に使い分けることで、対話をコントロールしています。
1.「深掘り」:真意を縦に掘り下げる
先生の発言の背景にある理由や具体例を確認します。
- キーワード: 「なぜ?」「たとえば?」「具体的には?」
- 効果: 先生の治療方針の根拠や、過去の経験を明らかにします。「なぜそのタイミングだったのですか?」と問うことで、教科書的な回答ではない、先生独自の「こだわり」が見えてきます
2.「発散」:視点を横に広げる
一つの話題に固執せず、他の可能性や周辺の状況を網羅します。
- キーワード: 「他には?」「もし~だとしたら?」「〇〇の視点では?」
- 効果: 先生自身も気づいていなかった潜在的なニーズを掘り起こします。「他には、懸念されている点はありますか?」という一言が、思わぬ重要課題(ペインポイント)を引き出すきっかけになります。
3.「収束」:全体を一つにまとめる
広がった話を整理し、結論や最も重要なポイントを確定させます。
- キーワード: 「ということは?」「最も重要なことは?」
- 効果: 対話の着地点を明確にします。「ということは、先生にとって今回、最も優先したいのは、どういうところでしょうか?」と確認することで、こちらの提案がズレるのを防ぎます。
これら3つの方向を意識するだけで、面談は単なる「お願い」や「説明」から、先生の診療課題を共に解決する「質の高いコンサルティング」へと変わります。
質問力は「技術」であり「習慣」である
「質問をするのが怖い」「失礼に当たらないか不安だ」と感じる方もいるかもしれません。しかし、心理学の観点から見れば、適切な質問は「あなたを理解したい」という最大の敬意の表れです。
特に「なぜ?」「たとえば?」「ということは?」の3つの言葉は、どんな診療科や立場の方に対しても使える普遍的なツールです。
例えば、先生が「最近、この手の患者さんが増えていてね」と仰ったとき。
- 「なぜ、増えていると感じられるのですか?」(深掘り)
- 「たとえば、どのような背景の患者さんが多いのでしょうか?」(具体化)
- 「ということは、今後どういったアプローチがより重要になってきますか?」(収束)
このように、一つのきっかけから対話を深めていくことができます。最初は意識的に使う必要がありますが、練習を重ねるうちに、意識しなくても口をついて出るようになります。「質問力」とは才能ではなく、磨き続けることができる「技術」であり、日々の「習慣」なのです。
この習慣が身につくと、面談中に「次に何を話そう」と焦ることがなくなります。なぜなら、次に話すべき答えは常に「先生の言葉の中」にあるからです。
情報提供の先にある「信頼関係」の築き方
今の時代、薬の情報だけであれば、医師はAIやWEBサイトからいくらでも得ることができます。そんな中で、MRやMSLが選ばれ続ける理由はどこにあるのでしょうか。
それは、情報の正しさ以上に、「自分の状況を深く理解し、思考を共にしてくれる存在」としての価値です。質問を通じて先生の本音を引き出し、理解と共感の礎を築く。その積み重ねこそが、競合他社には真似できない「あなただけの信頼」という資産になります。
もし、明日の面会に不安を感じているなら、まずは「今日は“たとえば?”と一回聞いてみよう」と決めるだけで十分です。その小さな一歩が、先生との関係性を劇的に変える大きな変化の始まりになります。
質問という道具を使いこなし、説明型のコミュニケーションから卒業しましょう。あなたの提案が、先生にとって「待ち望んでいた解決策」として響く日は、もうすぐそこまで来ています。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
