【説明しない勇気20】究極のプレゼンとは…「プレゼンしない」こと!? 一流のMRが実践する「説明しない勇気」とは?

なぜ「完璧な説明」ほど、医師の心に響かないのか?

製薬業界でMRやMSLとして、日々多くの先生方と向き合っている皆さん。説明会やディテーリングの準備において、何を一番大切にされていますか?

「スライドの準備は万全か」「トークスクリプトを完璧に覚えたか」「身振り手振りや目線の動きはできているか」「声のトーンや抑揚でアクセントをつけているか」……。かつての私も、そうした「演出」の完成度に心血を注いでいました。大学病院の医局でプレゼンを行う前などは、一言一句間違えないように、まるでアナウンサーのように練習を繰り返していたものです。

しかし、一生懸命に説明すればするほど、先生の表情がどこか上の空になり、最後は「分かりました、検討しておきますね」という、あのお決まりの言葉で終わってしまう。そんな経験はありませんか?

ある時、私は気づきました。プレゼンテーションの成功は、私の「説明の上手さ」ではなく、先生が「どれだけ自分で考え、語ってくれたか」にかかっているということに。今回は、多くのMRが陥りがちな「語りすぎ」の罠を抜け出し、医師の深い納得を引き出すための「説明しない勇気」についてお伝えします。

究極のプレゼンは「プレゼンしないプレゼン」である

プレゼンテーションと聞くと、多くの人は「一方的に情報を伝える場」だと考えがちです。しかし、交渉術の視点から見れば、それは大きな間違いです。

優れたプレゼンターは、実は自ら多くを語りません。むしろ、相手に「考えさせること」に主眼を置いています。私が提案したいのは、いわば「プレゼンしないプレゼン」です。

その鍵を握るのが、「質問」と「沈黙」です。

本来、説明というものは、相手が「知りたい」という強いニーズを感じて初めて意味を成します。ニーズが高まっていない状態での説明は、相手にとって「不要な雑音」でしかありません。もし、先生の興味を極限まで高めることができれば、極端な話、こちらが言葉を尽くさなくても「データはこちらです」と資料を差し出し、先生がそれを読み込む「沈黙の時間」を作るだけで十分なのです。

現在の製薬業界では、過剰なまでのコンプライアンス遵守の状況にあり、会社から支給された標準スライドを一言一句、順番通りに説明しなければならないというような、現場のMRにとっては非常に窮屈な、ある種「滑稽な状況」も散見されます。しかし、決められたスライドをただ「読み上げる」だけなら、それはあなたである必要はありません。

ならば、あえて「説明することをやめる」という選択肢を考えてみてください。重要なのは、スライドの間(ま)で「先生、このデータについてどう思われますか?」と問いかけ、先生の思考を動かすことなのです。

ある大学教授からの心に突き刺さる「二つの指導」

私がかつて、ある製品のアドバイザリーボードで、日本全国のトップクラスの大学教授たちを前にプレゼンを行った際のエピソードをお話しします。

その時、中心的な立場にいらした先生との事前打ち合わせで、私のプレゼン構成に対して衝撃的な指導を受けました。その先生は、私の洗練された(と自負していた)スライドを見て、こう仰ったのです。

「スライドは、もっと無駄を省きなさい。見た相手が『なんだこれは?』と思うくらいでいい。」

 

そしてもう一言、こうおっしゃいました。

「君が結論を言うな。」

 

一つ目の「無駄を省く」理由は、スライドが説明しすぎてしまうと、聞き手はそれだけで満足するか、あるいは読むことに集中してしまい、発表者の話を聞かなくなるからです。「なんだろう?」という疑問(ギャップ)があるからこそ、その後の解説が相手の脳に深く刻まれるというのです。

二つ目の「結論を言うな」の意味は、客観的な事実だけ伝えた上で「このデータについて先生はどう思われますか?」と完全に相手に判断をゆだねなさいということです。そして、この言葉はコミュニケーションの真理を突いています。人は、他人から与えられた結論には抵抗感を覚えますが、自分で導き出した答え(自己説得)に対しては、強い信念を持ちます。

プレゼンの役割は、答えを教えることではなく、相手が答えを見つけるための「良質な材料」と「問い」を提供すること。この学びは、私の「質問型交渉術」の原点となりました。

実務で役立つ「沈黙」と「問い」の設計図

では、皆さんは明日の医師との面談から、具体的にどう変えていけば良いのでしょうか。

まずは、ディテーリングの構成に「空白」を作ってみてください。データを1つ見せるたびに、すぐに説明を始めるのではなく、あえて3秒間、黙ってみるのです。その沈黙は、先生が情報を咀嚼し、自らの診療現場と照らし合わせるための貴重な時間になります。

そして、その後に投げかけるべきは、先生の思考を促す「質問型」の問いかけです。

  • 「先生には、この副作用データはどう映りますか?」
  • 「この薬剤の特徴から推察して、先生の患者さんでお役に立てそうな方はいませんか?」

このように問いかけ、先生が語り始めたら、あなたは「説明者」から「良き聴き手」へと回ってください。先生が自分自身の言葉で「なるほど、これならあの症例に使えるかもしれない」と言語化した瞬間、それはもはや営業トークではなく、先生自身の「確信」へと変わります。

もし、あなたが管理職の立場であったなら、部下への指導を振り返ってみてください。「もっと分かりやすく説明しろ」と指導していませんか? もしかすると、その指導が「先生の考えるチャンス」を奪っているのかもしれません。

相手の知性を信頼することから始まる交渉

プレゼンテーションとは、華やかなパフォーマンスではありません。相手に対する「深い敬意」と「信頼」をベースにした、対話のプロセスです。

「説明しない勇気」を持つということは、言い換えれば「相手の考える力を尊重する」ということです。医師という高度な専門家を相手にするMRやMSLの皆さんだからこそ、一方的な情報提供の壁を突き崩し、先生の知性に訴えかけるようなコミュニケーションを目指してほしいと願っています。

あなたの役割は、薬のパンフレットを読み上げることではありません。先生が「患者さんのために、何がベストか」を深く考えるためのきっかけを作ることです。

もし、これまでの説明中心のスタイルに限界を感じているなら、次の面談では一番伝えたい「結論」をあえて言わずに、先生に問いかけてみてください。その瞬間に生まれる「沈黙」と、その後に先生の口から語られる「本音」が、あなたと先生の信頼関係を、これまでにない次元へと引き上げてくれるはずです。

「語りすぎる」自分を卒業し、相手の思考を呼び覚ます真の交渉スキルを。その一歩を、今ここから踏み出してみませんか?

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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