【説明しない勇気84】なぜ製品説明を頑張るほど医師に断られる?MRが今すぐ身につけるべき、自然に処方が生まれる「マーケティング志向」の極意
必死に製品説明をしているのに「検討しておきます」で終わる根本原因
製薬業界の第一線で活躍するMRやMSLの皆さん、
そして日々の現場を率いるマネージャーの皆さん。
医師との面談やディテーリングにおいて、
次のようなもどかしさに直面していませんか。
「製品の有効性や安全性を
これだけ熱心に説明しているのに、
先生の反応が芳しくない」
「熱い想いでトークを展開したつもりなのに、
最後は『分かった、検討しておくよ』と
流されてしまう」
「競合他社との違いをアピールすればするほど、
医師との心の距離が広がっていく気がする」
どれだけ製品知識を磨き、
流暢な話法を駆使して「営業」を仕掛けても、
なかなか処方に結びつかない。
私自身、プロダクトマネージャーを務めていた当時、
「これほど科学的に優れた薬剤なのに、
なぜ現場で思うように売れないのか?」
と、毎日大きな葛藤を抱えていました。
営業現場のMRに
「ディテーリングの回数を増やしてくれ」
「先生に製品特性を詳しく説明してくれ」
とハッパをかけるだけでは、
どうしても突破できない
構造的な壁があったのです。
その壁を破るヒントこそが、
営業の対極にある
「マーケティング志向」
でした。
「売ろう、説明しよう」と力むのをやめ、
製品が自然に、そして継続的に
「売れていくための仕組み」
を設計したとき、初めて市場が動き出したのです。
今回は、売り込み型のコミュニケーションから脱却し、
医師から自然と選ばれる存在になるための
思考法をお伝えします。
コトラーが説く理想。製薬業界だからこそ知るべき「売れていくための仕組みづくり」の3つの特殊性
そもそも、皆さんは「マーケティング」と聞いて
どのようなイメージをお持ちでしょうか。
市場調査や顧客データの分析、
派手なプロモーション、あるいは
営業支援ツールの作成などを
思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、マーケティングの本質は
「売るための活動」ではありません。
モノが自然と、そして継続的に
「売れていくための仕組みづくり」
のことです。
「マーケティングの父」と称される
フィリップ・コトラーは、
「マーケティングの理想は
販売を不要にすることである」
と述べています。
つまり、MRが一生懸命に売り込まなくても、
医師が自ら「この薬剤が必要だ」と興味を持ち、
価値を理解し、最終的に治療の選択肢として
選んでくれる状況をデザインすることこそが、
本来の目的です。
特に、私たちが身を置く製薬業界のマーケティングには、
他業界とは異なる3つの大きな特殊性があります。
これらを理解せずして、効果的なアプローチは望めません。
1. 顧客が「3層構造」になっている
薬を決定する「医師(処方権者)」、
調剤や服薬指導を担う「薬剤師(調剤・処方)」、
そして実際に服用して恩恵を受ける「患者(実際の利用者)」
という3つの層を常に意識する必要があります。
医師だけに向けた一方的なディテーリングでは、
多角的な医療ニーズに応えることはできません。
2. 製品の取り扱いが法的に厳しく規制されている
どれほど優れた薬剤であっても、
広告や情報提供活動の内容は、
薬機法や販売情報提供活動ガイドライン、
製薬協のコード・オブ・プラクティス
などによって厳しく制限されています。
アドリブの効いた派手なアピール
(誇大表現)は許されず、
常に科学的根拠に基づいた
正確かつ誠実なトークが求められます。
3. 製品そのものの差別化が非常に難しい
医薬品の価格は国が定める「薬価」で
一律に基準が統一されています。
さらに、競合品との間で、
有効性や安全性に
劇的な差がない場合がほとんどです。
スペック(有効性・安全性の数値)の比較だけで
差別化を図ろうとすれば、
すぐに価格競争や不毛な押し売りの
泥沼にはまってしまいます。
だからこそ、ただ「説明する営業」ではなく、
医師が自然に納得して処方したくなる
「売れていくための仕組み(ストーリー)」
を、私たちの頭の中
に設計することが不可欠なのです。
売り込みを「寄り添う交渉」に変える!現場で再現できる5ステップのストーリー設計
では、日々の面談やディテーリングにおいて、
どのようにして「自然と選ばれる仕組み」
を構築すればよいのでしょうか。
マーケティングを科学的なアプローチと捉え、
現場で再現可能な「ストーリー」に落とし込むための
5つのステップをご紹介します。
ステップ1:環境分析による「立ち位置」の把握
自社製品だけでなく、競合品の特徴や弱みを冷徹に分析し、
自社製品が最も輝く市場の「隙間」やポジションを
客観的に把握します。
ステップ2:対象疾患と「患者像(ペルソナ)」の定義
「すべての患者に良い薬です」という説明は、
誰の心にも響きません。
治療パス(診療の流れ)の中で、
自社製品がどのタイミングで、
どのような悩みを持つ患者さんに
最も貢献できるのか(位置づけ)を
ピンポイントで明確にします。
ステップ3:医師の「意思決定プロセス」の分解
医師が普段、どのような基準で
治療薬を選択しているのか、
その心理的ステップを分解します。
「何に困っているのか」
「どこで躊躇するのか」を予測し、
介入すべきポイントを
あらかじめ定めておきます。
ステップ4:「誰に・何を・どうやって」伝えるかのシンプル化
複雑なデータや膨大な資料を
そのまま見せるのではなく、
ステップ2で定めた特定の患者像に対して、
伝えるべき価値を「一言」に絞り込みます。
ステップ5:現場で再現可能なストーリーとツールの準備
MRが一方的に製品説明をするのではなく、
医師に「気づき」と「納得」をもたらす
質問型コミュニケーションの
ストーリーを組み立てます。
この5ステップに沿って面談を組み立てると、
MRの役割は
「自社製品をアピールする人(売り手)」から、
「医師の目の前の課題を一緒に解決する人(パートナー)」
へと劇的に変化します。
たとえば、パンフレットを見せて
効能効果をただ説明するのではなく、
「先生、〇〇で~~のような患者さんは
いらっしゃいませんか?」
と問いかける(質問型)。
医師が具体的な患者の顔を
思い浮かべたその瞬間に、
「実は、その治療ステップにおいて、
このような最新のエビデンスがございます」
と、寄り添う姿勢で
そっと価値を提示するのです。
これが、マーケティング志向を
現場に活かした交渉術の真髄です。
単なる情報伝達者から「価値の伝道者」へ。チームで共有すべき戦略的思考
優れたマーケティング志向は、
現場のMRの精神的負荷を劇的に減らし、
活動の成果を底上げする力を持っています。
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「説明して売る」営業を卒業し、医師が自ら選びたくなる「売れていく仕組み」をデザインする。
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製薬業界の「3層構造」「法的規制」「差別化の難しさ」という特殊性を、独自のストーリー設計でクリアする。
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「利己(自社の数字)」から「利他(患者・医師への貢献)」へと判断基準をシフトし、質問型交渉術で医師の意思決定プロセスに寄り添う。
あなたが現場のMRやMSLを指導・育成する
マネージャーや上司であるならば、
メンバーに伝えるべきは
「もっと製品知識を詰め込め」
「訪問回数を増やせ」
という精神論ではありません。
制約の多いこの製薬業界において、
いかに高い志を持ち、戦略的に
「社会貢献」と「信頼構築」を成し遂げるかという、
マーケティングの本質的な面白さです。
メンバーを単なるパンフレットの「情報伝達者」
で終わらせるのか、それとも
医師の臨床課題を解決する「価値の伝道者」
へと育てるのか。
その鍵は、あなたがチームに共有する
「売れていくための仕組みづくりの設計図」
の中にあります。
「誰の、どんな課題を、どうやって解決するか」
という構造的な問いに、誠実に向き合い続けること。
その姿勢こそが、他社が決して真似できない、
医師との揺るぎないパートナーシップの礎と
なるはずです。
コンプライアンスの枠組みを完璧に味方につけ、
医師から「あなただからこそ、治療の相談がしたい」
と絶対的な信頼を寄せられるための、
具体的なトークストーリーの設計法や、
組織全体の戦略的思考を底上げするための
実践的なアプローチについて、
さらに深い学びを始めてみませんか?
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
