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【説明しない勇気35】なぜ「熱心な説明」ほど医師に響かないのか?売り込みの気配を消し、信頼を勝ち取る「貢献」のディテーリング

「検討しておきます」という壁に突き当たっていませんか?

製薬業界の最前線で活動するMRやMSLの皆さん、あるいは現場を支える管理職の皆さん。日々、医師との面会を重ねる中で、こんな「もどかしさ」を感じたことはないでしょうか。

最新のエビデンスを網羅し、視覚的にも美しい資料を持参して、誰よりも熱意を込めて製品の特長を伝えたはずなのに、先生の反応はどこか冷ややか。「データは分かったよ、検討しておくね」という一言で面会が終わり、それきり進展がない……。

私自身、製薬業界の現場にいた頃は、まさにこの「空回り」の連続でした。一生懸命であればあるほど、先生との心の距離が遠のいていく。本音を引き出したいのに、相手の懐に入り込めない。そんな時期を長く過ごしました。実は、この停滞感の原因は、あなたの「スキルの不足」ではなく、皮肉にもあなたの「熱意の方向性」にあるのかもしれません。

 

医師が敏感に察知する「売り込みの気配」の正体

私たちは「この製品の良さを伝えたい」「処方を増やしてほしい」という目標を持って面会に臨みます。もちろん、それはビジネスとして当然のことです。しかし、その「売りたい」という強い思いは、私たちが思っている以上に、表情や声のトーン、わずかな姿勢の変化ににじみ出ています。

心理学の世界では「心理的リアクタンス」という言葉がありますが、人は相手の意図に「誘導」や「強制」を感じた瞬間、無意識に心のシャッターを下ろしてしまいます。医師というプロフェッショナルは、相手の“意図”を察知する能力が極めて高い方々です。こちらの「売り込みたい」という気配を感じ取った瞬間に、彼らは自分を守るために防衛本能を働かせ、距離を置こうとするのです。

では、どうすればこの壁を突破できるのでしょうか。答えは極めてシンプルです。「売ること」を目的にするのをやめ、「相手の役に立つこと(貢献)」に一点集中するのです。

例えば、「この薬剤を使ってほしい」という願望を、「この薬剤が、先生が今目の前で悩まれている症例や、その先にいる患者さんにどう貢献できるか?」という問いに置き換えてみてください。主語を「自分(会社)」から「先生と患者さん」に転換する。これだけで、あなたの発するオーラは「売り手」から「パートナー」へと劇的に変化します。

 

「共に考える姿勢」が質問の質と信頼の土壌を変える

貢献を軸に据えると、ディテーリングにおける具体的な振る舞いが自然と変わっていきます。具体的には、自分自身へ次のような問いを投げかけながら対話を進めてみてください。

 

「この製品の特長は、先生が抱える臨床上の課題のどこに合致するか?」

「この情報を知ることで、先生の診断や治療の選択肢はどう広がるか?」

「患者さんにとって、この薬剤を選択する真のメリットは何だろうか?」

 

こうした視点を持つと、一方的な「説明」は影を潜め、自然と「質問型」の対話が生まれます。「先生、最近〇〇な症例で困ることはありませんか?」という問いかけが、単なるトークスクリプトの暗記ではなく、心からの関心に基づいた言葉として相手に届くようになります。

医師と「共に考える姿勢」を持つこと。それこそが、どんな高度な交渉術よりも強力な、信頼の土壌を作るのです。先生が「このMRは私の診療をより良くしようと一緒に悩んでくれている」と感じたとき、初めて情報の価値は正しく伝わり、「検討しておきます」というお決まりの台詞は消え去ります。

 

執着を手放した瞬間に、数字は後からついてくる

誤解して欲しくないのは、「売ることを諦める」のではありません。「売りたい気持ちへの執着」を手放すのです。

皮肉なことに、売るための秘訣は「売ろうとしないこと」にあります。あなたが徹底して「先生と患者さんの役に立つ」という貢献のスタンスを貫けば、先生はあなたを情報の門番としてではなく、臨床の協力者として迎え入れるようになります。その結果として、処方が増え、採用が決まる……。これはテクニックによる結果ではなく、強固な信頼関係がもたらす「必然」なのです。

まずは明日の訪問、カバンから資料を出す前に一度深呼吸をして、自分に問いかけてみてください。「今日、私はどうやって先生の役に立とうか?」と。その小さな意識の変革が、あなたのディテーリングを、そしてキャリアを大きく変える第一歩になります。

製薬業界という、命に関わる情報を扱う誇り高い仕事だからこそ、本質的な「貢献」を追求する喜びを共に分かち合いたいと願っています。

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部合成化学科卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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