【説明しない勇気79】コンプラ違反が怖くて動けないあなたへ。ルールを味方につけて医師の圧倒的な信頼を勝ち取るプロの質問型交渉術
「それは話せません」と言い訳していませんか?思考停止に陥るコンプラの罠
製薬業界の最前線で活動するMRやMSLの皆さん、
そしてメンバーの活動を支え、
コンプライアンスの徹底と成果の両立に日々頭を悩ませている
マネージャーの皆さん。
皆さんの職場では、日頃から
こんなやりとりが交わされてはいないでしょうか。
「先生から質問されましたが、コード違反になりますので回答しませんでした」
「SOP上、その資料は使用不可なので、今回の訪問は見合わせます」
こうした言葉がメンバーや自分自身の口から
自然に出るようになっているのであれば、
それは社内のコンプライアンス意識が
十分に高まっている証拠だと言えます。
しかし、私の経験上、ここに大きな落とし穴が潜んでいます。
それは、いつの間にかルールが
「行動をやめるための格好の言い訳」や
「思考停止の道具」
にすり替わてしまうという罠です。
私自身、年々厳格化する製薬業界のルールを前に
「これでは踏み込んだ提案なんて何もできないではないか」
と、医局の前で途方に暮れた経験が何度もあります。
しかし、数多くのトッププレイヤーの営業活動や交渉現場を分析する中で、
ある重要な真実に気がつきました。
ルールに詳しいこと自体は評価されますが、
それ以上に大切なのは
「与えられたルールを守りながら、どのように目的を達成するのか」
を泥臭く考え続ける姿勢です。
ルールを理由に「できない」と諦める人と、
ルールを味方につけて
「どうすればできるか」を模索する人。
この対応力の差こそが、医師から選ばれるか否かの
決定的な分岐点になるのです。
プロフェッショナルが押さえるべき「3つの規範」と真の目的
製薬業界における情報提供活動は、
患者さんの命や健康に直結する極めて重大な行為です。
だからこそ、業界独自のルールを深く理解し、
それをコミュニケーションの「足枷」ではなく
「強固な土台」へと昇華させる必要があります。
私たちが日常のディテーリングで
向き合うべき3つの大きな規範について、
その背景と目的を改めて整理してみましょう。
1. 企業論理を超えて自らを律する「コード・オブ・プラクティス」
日本製薬工業協会(製薬協)が会員企業向けに定めた自主行動規範であり、
その目的は「社会から信頼される企業行動」の実現にあります。
①医薬品情報の適正提供、
②医療関係者との経済的関係の透明化、
③企業活動全体の倫理性の確保、
という3つの柱から成り立っています。
これは、単に「法令違反を避けるためのルール 」ではなく、
医療の信頼性や社会の価値観を基準に、
自らを律するための高潔な文化的基盤なのです。
2. 最低限守るべき一線を示す「公正競争規約」
医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(公取協)
が運用する自主規制ルールです。
金券や過度の飲食を禁止する「景品類の提供制限」、
科学的根拠に基づく情報のみを使用させる「資料表現の制限」、
訪問記録やモニター制度への備えを求める「活動記録と監査」、
そして「講演会の適正実施」などが基本項目となります。
これらは情報提供活動における不公平な競争を排除し、
医療の適正化を図るための「最低限守るべき一線」です。
3. 現場を守り法令遵守を果たす「SOP(標準業務手順書)」
各社は、上記のガイドラインや業界ルールに沿って、
自社のSOPを精緻に整備しています。
これは現場のMRやMSLが確実に法令遵守を果たすための
重要なツールです。
しかし、実際の現場では、このSOPの背景や目的を十分に理解しないまま、
「よく分からないから、トラブルを避けるためにアプローチをやめておこう」
というネガティブな思考停止に陥るケースが散見されます。
プロフェッショナルとして真に目指すべきは、
「出来ない理由を数え上げる」ことではありません。
「どうすればこのルールの範囲内で、正しく、誠実に医師へ価値を伝えられるか」
という道筋を自ら見つけ出す姿勢なのです。
「話せません」から「引き出すチャンス」に変えるトークの設計図
法令や業界ルールには、未承認情報の提供禁止など
「話すな」という抑止の側面が確かにあります。
しかし、医師からデリケートな質問や他剤比較を求められたときこそ、
実は「質問型交渉術」の本領を発揮し、
医師との距離を劇的に縮める絶好のチャンス(機会)なのです。
現場でアドリブに頼らず、
ルールを味方につけて主導権を握るための
具体的なコミュニケーションの対比を見てみましょう。
【失敗例:コンプラを盾に相手を拒絶する思考停止トーク】
医師:
「この薬、海外の文献ではもっと広い適応症でのデータが出ているよね。
実際どうなの?」
MR:
「先生、申し訳ありません!
弊社のSOPと業界のガイドライン上、
国内未承認の効能効果につきましては、
私どもの口からは一切お答えできないことになっておりまして……」
分析:
ルールを言い訳にして、医師の知的好奇心や臨床上の疑問を
その場でシャットアウトしています。
これでは医師から
「融通の利かない、ただのパンフレット配り」
と判断され、深い本音を話してもらえる関係を
築くことはできません。
【成功例:ルールを守りつつ本音を引き出す質問型話法】
医師:
「この薬、海外の学会ではもっと広い適応症でのデータが出ているよね。
実際どうなの?」
MR:
「さすが先生、海外の最新知見まで幅広く網羅されているのですね。
確かに海外データはございますが……。
ちなみに先生は、なぜそのような情報に
アクセスされているのですか?」
医師:
「実はね、既存の治療法だと、どうしてもコントロール
しきれない症例が一定数いてね」
MR:
「なるほど、そういうことだったんですね。
国内での承認の範囲内での情報でしたら、
一度精査し、情報をお持ちさせていただきます。」
「もし、国内の未承認情報が必要な場合には
メディカル部門に連絡し対応してもらいますが…。
どう致しましょうか?」
分析:
未承認情報をその場で安易に説明するリスクを
完璧に回避しつつ、医師がなぜその質問をしたのかという
「背景や真意」を引き出しています。
「その情報は話せません」と突き放すのではなく、
相手の関心の背景を丁寧に確認し、
承認された範囲であれば情報提供できる旨を伝え
と前向きに対応する。
ルールを制約から「武器」へ。医師の生涯のパートナーを目指して
激動の製薬業界において、法令やコードを
「自分を縛る敵」と捉えている人は、
活動の質がどんどん低下し、
やがて医師から必要とされなくなっていくでしょう。
1.ルールを「話すな」という
抑止ではなく、誠実な
情報提供活動を行うための
「味方」として再定義する
2.医師からのデリケートな質問を
拒絶せず、質問型話法で
その関心の「理由」「背景」
を丁寧に引き出す
3.「出来ない理由」を考える
のではなく、ルール内で
「どうすれば正しく
伝えられるか」
の道筋を創る
どんなルールが与えられているかではなく、
与えられたルールをどう使うか。
質問型交渉術を活用して医師の価値観に共鳴し、
コンプライアンスの枠組みの中で最高の
「お役立ち」を模索する姿勢こそが、
あなた自身の人間力を磨き、
他社が決して真似できない絶対的な
信頼と成果を獲得するための唯一の道です。
ルールを守りつつ結果を出せるプロフェッショナルへ——
その第一歩として、まずは明日からの訪問やWEB面談に向けて、
「話せません」と口にしそうになった瞬間の
「切り返しの質問」を一文、
ノートに書き出すことから始めてみませんか?
厳格なルールの壁を鮮やかにクリアし、
医師から
「あなただからこそ安心して相談できる」
と言われるための具体的なトーク設計や、
組織全体の対応力を底上げするための
実践的なロールプレイの回し方について、
さらに私と一緒に深い学びを始めてみませんか?
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
