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【説明しない勇気102】見返りを求めるほどドクターは離れる?MRが知るべき「返報性の法則」とGIVEに徹するディテーリング術

「GIVE & TAKE」の罠。一生懸命情報提供しているのに響かない理由

製薬会社の最前線で活動するMRやMSLの皆さん、

そしてチームの成果を底上げしようと

日々奮闘しているマネージャーの皆さん。

医師との面談で、こんな虚しさを

感じたことはないでしょうか。


「忙しい合間を縫って最新の論文を届け、

勉強会の案内もしているのに、

いざ処方の話になると

『検討しておくよ』で躱されてしまう」 


「これだけ先生のために動いているのだから、

そろそろ自社製品を採用してくれてもいいはずなのに、

全く手応えがない」


「営業はGIVE & TAKEだ」という言葉を

私たちはよく耳にします。

しかし、多くの人がこの言葉に

「何かを提供すれば(GIVE)、

いずれ見返り(TAKE)があるはずだ」

という暗黙の期待を抱いてしまっています。


私自身、製薬会社の現場にいた頃、

熱心に情報提供(GIVE)を繰り返しながらも、

心の中では

「これだけやったのだから、

次の新薬は使ってくれるだろう」

という下心を常に隠し持っていました。


しかし、その期待が高まれば高まるほど、

不思議と医師の心は離れていき、

処方という結果(TAKE)には

結びつかなかったのです。

なぜ、私たちの熱意や努力は、

空回りしてしまうのでしょうか。


今回は、心理学的なメカニズムを紐解きながら、

医師から

「あなたから買いたい」

「あなたに協力したい」

と自然と思ってもらえる、

真のGIVEの精神に基づいた

コミュニケーション術についてお伝えします。



「返報性の法則」のスイッチを押す、純度100%のGIVEとは

心理学の基本法則の一つに

「返報性の法則」があります。


人は、他者から何か価値あるものを

無償で提供されたとき、無意識のうちに

「この恩をお返ししなければ」

という感情(負債感)を抱くという、

文化や年齢を超えた普遍的な心理作用です。


これを聞くと、

「やっぱりGIVEすればTAKEが返ってくるじゃないか」

と思うかもしれません。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。

人間は、相手のGIVEの裏に

「見返りを求める下心(営業的な意図)」

を感じ取った瞬間、

この返報性のスイッチを

強制終了させてしまうのです。


医師は日々、数多くの製薬企業から

膨大な情報提供を受けています。

「このデータを持ってきたのだから、

処方を変えてくださいね」

という無言のプレッシャー(下心)が

透けて見えるMRの訪問は、

医師にとって負担でしかありません。


では、どのようなGIVEが

医師との信頼構築に有効なのでしょうか。


  • 診療のボトルネックを解消する学術的情報を、最適なタイミングで届ける
  • 自社製品のメリットだけでなく、他施設での失敗例や工夫など、客観的な実態を共有する
  • 「自社の数字」ではなく、「医師の治療方針」や「患者のQOL向上」を主語にして語る

これらは、TAKEを一切目的とせず、

純粋に「先生のために役立ちたい」という

意図だけが伝わるGIVEの一例です。


売上やノルマはあくまで結果であり、

目的ではありません。

大切なのは、相手の役に立ち、

「この人は本気で自分の診療を支えようとしてくれている」

と感じてもらうことです。


その誠実な姿勢こそが、結果的に

最大のTAKE(処方や推奨)を引き寄せるのです。



「販売志向」から「マーケティング志向」へ。医師の心を開く質問型アプローチ

私たちがつい見返りを求めてしまう原因は、

無意識のうちに「販売志向」に偏っている

ことにあります。


販売志向とは、

「どうやってこの製品を売るか」

「いかに自社の目標数字を達成するか」

という自社都合を優先する姿勢です。

この姿勢のまま面談に臨むと、

製品の魅力を一方的にプレゼンし、

医師の真のニーズには耳を傾けない

「押し売り」のディテーリングになってしまいます。


これに対極に位置するのが

「マーケティング志向」です。


マーケティング志向とは、

「どうすればこの医師の診療の役に立つのか?」

「患者さんにとってベストな選択肢は何か?」

という顧客(医師・患者)のニーズを

第一に考える姿勢です。

「売ること」を目的にせず、

相手の課題を解決することで、自然と製品が

「選ばれる(売れていく)仕組み」

を構築するのです。


このマーケティング志向を

現場のコミュニケーションに落とし込むための

最強の武器が、「質問型交渉術」です。



「どう売るか」ではなく「どう喜ばれるか」。体験と想像が信頼を創る

マーケティング志向を実践するために

欠かせないのが、

「体験する」ことと「想像する」ことです。


松下幸之助氏が、猛暑の中で

自社のパビリオンに並ぶ一般客の苦労を自ら体験し、

日除けの紙傘を配って称賛を浴びたように、

私たちも「医師の立場」を深く想像する必要があります。

忙しい外来の中で、医師は何に悩み、

患者さんからどんな言葉を投げかけられ、

何を求めているのか。


現場の空気を肌で感じ、相手の気持ちを想像することから、

すべての価値提供は始まります。

これからのディテーリング活動は、

「売る(取引)」ではなく、

顧客に「喜ばれる(関係性の構築)」ことがゴールです。


もしあなたが今、

「どうやって製品を売ろうか」

「どうやって処方を引き出そうか」

と思い悩んでいるなら、その思考を一旦リセットし、

「どうすればこの先生に喜んでもらえるだろうか?」

という問いに置き換えてみてください。


GIVE & TAKEという言葉の順番は、

決して偶然ではありません。

まず純粋に与えること。

与えることに迷いがなくなり、

その誠意が自然に伝わるようになったとき、

あなたの営業活動は最も人間的で、

大きな成果をもたらすものへと

劇的に変わるはずです。



次回は、この「お役立ち」の精神をベースに、

医師の多様な価値観(タイプ)を見極め、

相手に合わせた最適なアプローチを展開する

「6つの医師タイプ別攻略法」

について深く掘り下げていきます。



プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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