【説明しない勇気101】売ろうとするほど医師の心は離れる?MRが身につけるべき「対峙」を「並走」に変えるディテーリングの極意
「検討しておきます」で終わる面談の裏にあるもの
製薬会社のMRやMSL、MA担当者の皆さん、
そしてメンバーを指導するマネージャーの皆さん。
日々のディテーリング活動の中で、
「一生懸命に売ろうとすればするほど、
なぜかうまくいかない」
と感じたことはありませんか。
「綺麗なスライド資料を準備し、
熱意を込めて製品のメリットを説明したのに、
先生の反応がいまひとつ薄い」
「ひと通り説明し終えた後、
『分かりました、検討しておきます』
と言われたきり、
その後の処方に全くつながらない」
こうした悩みは、多くの担当者がぶつかる
共通の壁です。
私自身、製薬会社の現場で長く働き、
数多くの担当者を見てきましたが、
真面目で熱心な人ほど、このジレンマに陥りやすい
傾向があります。
知識を身につけ、話法を磨いているはずなのに、
なぜか医師の懐に入り込めない。
その根本的な原因は、あなたのトークスキルや
製品の知識不足にあるのではありません。
実は、あなたの心の中にある
「売りたい」
という強すぎる思いそのものが、
成果を遠ざけているのです。
「売り込みオーラ」が引き起こす心理的警戒と「並走」への転換
なぜ、「売りたい」という熱意が
逆効果になるのでしょうか。
心理学において、人間は相手の“意図”を
非言語情報(表情、姿勢、声のトーン、視線の動きなど)
から想像以上に敏感に察知する生き物だとされています。
医師は、日々多くの製薬企業の担当者から
情報提供を受けているプロフェッショナルです。
あなたが
「今日の面談でなんとか自社製品を採用してもらおう」
と意気込んでいるとき、
その「売り込みの気配」は
確実に相手に伝わっています。
そして、相手が
「売り込まれている」
「説得されようとしている」
と感じた瞬間、無意識のうちに
心理的リアクタンス(抵抗)が働き、
心の距離を置いてしまうのです。
これが、熱意の裏で信頼関係の構築が
妨げられるメカニズムです。
では、どうすればこの壁を
越えられるのでしょうか。
答えは極めてシンプルです。
「売ること」
を目的にするのではなく、
「相手の役に立つこと」
に思考と行動を集約させるのです。
医師への情報提供において、
私たちはつい相手と「正面から向き合う」、
つまり「対峙する」構図で関係性を捉えがちです。
しかし、向かい合って座る構造は、
無意識のうちに
「説明してお願いする側」と
「それを評価し判断する側」という
上下関係を生み出してしまいます。
これでは、双方向の信頼関係に基づく
コミュニケーションは成立しません。
私たちが目指すべきは、
「説得」や「お願い」ではなく、
医師と課題を共有し、ともに解決策を探る
「並走」の姿勢です。
これは物理的な座り位置の話だけではなく、
精神的な位置関係として
「横に並んで座り、同じ方向を見る」
イメージを持つということです。
目線を揃え、同じ患者さんという景色を見ながら、
「この治療のハードルをどう越えるべきか」
を一緒に考える。
この“並走型”のアプローチこそが、
医師の警戒心を解き、真のパートナーとしての
信頼を育む最短ルートなのです。
質問型で「患者への貢献」を描き出すディテーリングの実践
「対峙」から「並走」へと関係性を変えるためには、
具体的な話法やアプローチを
どう変えればよいのでしょうか。
それは、自社の製品を主語にするのではなく、
医師や患者さんの課題を主語にして
「質問」を投げかけることです。
【失敗例:対峙して説得しようとするコミュニケーション】
- MR:
「先生、本日は当社の新薬についてご説明します。
この薬剤は既存薬に比べて〇〇の点で優れており、
安全性も高いです。
ぜひ先生の患者さんにも処方を
お願いできないでしょうか?」
- 医師:
「うん、データは分かった。
ただ、今の薬で特にトラブルも起きていないから、
無理に変える必要性を感じないんだよね。
検討はしておくよ。」
- 分析:
製品を売り込もうと正面から説得しているため、
医師は「リスクを取ってまで変える理由がない」
と防御の姿勢に入ってしまいます。
【成功例:並走し、課題解決を探る質問型コミュニケーション】
- MR:
「先生、いつも〇〇疾患の患者さんに
丁寧に向き合っておられますが、
現在の標準治療を続けられる中で、
『どうしてもこの症状だけはコントロールが難しい』
とお感じになるケースはございませんか?」
- 医師:
「そうだね、高齢の患者さんだと、
どうしても夜間の症状が抑えきれなくて、
睡眠不足を訴えられることがあるよ。」
- MR:
「そうなんですね。
患者さんの睡眠の質を守ることは、
先生にとって非常に重要なテーマだと思いますが、
実は、そうした夜間の症状コントロールに
役立つ可能性のある新しいアプローチがあるのですが、
興味はございますか?」
- 分析:
「この薬剤を使ってほしい」という思いを、
「先生の診療や患者さんにどう貢献できるか?」
という視点に転換しています。
質問型で相手の課題を引き出し、
その解決策を“一緒に考える”スタンスを取ることで、
医師はあなたを「売り込みに来た営業」ではなく、
「課題解決の相談相手」として認識します。
売ることを手放した先に待つ、本質的な成果
結局のところ、ディテーリングにおける
最大の秘訣とは、
「決して売ろうとしないこと」
に尽きます。
自分の利益やノルマをいったん脇に置き、
相手にとっての価値をひたすら考え抜くこと。
短期的な数字を追って焦るのではなく、
長期的な信頼関係の構築に
意識を集中することです。
「この製品は、先生の抱える課題のどこに役立つか?」
「患者さんにとって、どんなメリットがあるか?」
「その情報は、先生にとって本当に価値あるものか?」
こうした問いを自分自身に投げかけながら、
相手に寄り添う姿勢を持つこと。
結果として、医師の方から
「それなら一度、あの患者で使ってみようか」
と自然に動き出してくれる。
これが、“売らずして売れる”という究極の状態です。
商品やサービスを売るのではなく、
信頼を届ける。
このスタンスを身につけたとき、
あなたは本当に価値あるプロフェッショナルへと
進化します。
今回は「売りたい気持ち」を手放し、
医師と並走するマインドセットについて
お伝えしました。
次のブログでは、この信頼関係をさらに強固にするための
「相手の心を開く具体的な言葉のスキル」
——特に、交渉の達人たちが必ず実践している
「ほめる」技術と、その本質について
深く掘り下げていきます。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
