【説明しない勇気108】医師を怒らせてしまったら?「とりあえず平謝り」が火に油を注ぐ理由と、ピンチを信頼に変える究極の謝罪ステップ
なぜ、一生懸命謝罪したのに医師の逆鱗に触れてしまうのか
製薬業界の最前線で活動するMRやMSLの皆さん、
そしてチームのディテーリング活動を支える
マネージャーの皆さん。
多忙な医師との面談中に、
こんな冷や汗をかくような場面に
遭遇したことはありませんか。
「いつも穏やかな先生が、
ある説明をした途端に突然語気を強め、
話を遮られた」
「何か気に障ることを言ってしまったのか、
完全に心を閉ざされ、『もういい、帰ってくれ』
と突き放されてしまった」
「慌てて『申し訳ございません!』と
何度も頭を下げたのに、かえって火に油を注いでしまい、
その後の訪問ができなくなってしまった」
医師からの激しい問い詰めや怒りに直面すると、
私たちはつい
「叱られた」「嫌われた」
と萎縮してしまいます。
そして、その場をなんとか丸く収めようと
「とりあえず謝る」
という行動に走りがちです。
私自身、製薬会社で若手時代に、
上司とともに大学教授を訪問した際、
ひたすら頭を下げ続ける「平謝り」が、
逆に教授の怒りに火をつけたという
非常に厳しい場面に遭遇した経験があります。
実は、良かれと思ったその「謝り方」が、
医師との関係を永遠に断ち切ってしまう原因
かもしれません。
今回は、医師の「怒り」の正体を読み解き、
絶体絶命のピンチを強固な信頼関係へと変える
戦略的なコミュニケーション術について
お伝えします。
怒りの正体は「期待への失望」。製薬業界特有の見えない壁とは
そもそも、人はなぜ怒るのでしょうか。
心理学的に言えば、怒りとは単なる感情の爆発ではなく、
「自分の期待が裏切られた」
「自分の価値や専門性が軽視された」
という深い失望の表れです。
特に医師は、医学・医療に対する
強い責任感と自負を持って
日々患者さんと向き合っている
プロフェッショナルです。
そのため、MRやMSLが
「自社都合の売り込み色の強い説明」をしたり、
「専門性を軽視した配慮のない提案」
をしたりしたとき、自分たちの信念とのズレを感じ、
それが怒りとなって表面化するのです。
さらに近年、製薬業界と医師との間には、
プロモーション規制の強化や利益相反(COI)の
透明性確保、院内ルールの厳格化などにより、
以前にはなかった微妙な距離感や緊張感が
漂っています。
「接触のたびに書類提出が必要」
「過度なプロモーションへの警戒」
といった背景があるからこそ、
医師は製薬企業の担当者の言動に対して
非常に敏感になっています。
だからこそ、私たちは現場で避けるべき
「地雷」を意識しなければなりません。
時間にルーズな訪問、専門性を軽視した対応、
会社都合の売り込み、他社や他剤の否定、
不誠実な態度といった「タブー」を
犯さないことが大前提となります。
しかし、もし万が一、医師の逆鱗に
触れてしまったらどうすべきでしょうか。
逃げ出してはいけません。
怒りが生まれたということは、
医師があなたに「期待」していた証拠であり、
無関心ではないというサインでもあるのです。
「解毒」の欠如と「平謝り」の罠。悪い謝罪が信頼を破壊する
相手の怒りに直面した際、多くの人が
「謝れば丸く収まる」と勘違いしています。
しかし、謝罪の真の目的は、
単に頭を下げることではありません。
最大の目的は「関係性の修復と再構築」であり、
その第一歩は相手の感情の毒を抜く
「解毒(プライマリー・エンドポイント)」
にあります。
この目的を見失うと、交渉やコミュニケーションにおいて
取り返しのつかない「悪い謝罪」に陥ります。
「しかし、こちらにも事情がありまして」
などと、自分の都合を優先した
嘘や隠ぺい、言い訳や責任転嫁
不誠実な態度などは言語道断です。
その一方で、真面目な担当者が最も陥りやすい罠が
「過度な謝罪(平謝り)」です。
先述した私の若手時代に経験した
大失敗エピソードに戻りましょう。
教授が「話が少し違うのでは?」
と不満を示した際、同席した課長が
「大変申し訳ございませんでした!」
とひたすら頭を下げ続けました。
最初は教授も「分かったから、もういいよ」と
なだめていたのですが、過剰な謝罪が続くにつれ、
ある瞬間を境に激怒してしまったのです。
なぜ激怒したのか。
それは、相手の
「私はそれほど怒っていない」
という温情(温度感)を無視し、
「先生には、本当に取り返しのつかない
大変失礼なことをしてしまって…」
とひたすら平謝りを続けたからです。
本来であれば、そのタイミングで
「ご指摘頂きありがとうございます」
と感謝に切り替えるべきだったにもかかわらず、
相手と自分との間に広がる
「温度差」に気づかず謝罪を重ねた結果、
相手の感情を逆撫でしてしまったのです。
ピンチをチャンスに変える「いい謝罪」4つのステップ
医師の怒りの感情を鎮め、
以前よりも強固な信頼を取り戻すためには、
謝罪を単なる「陳謝」ではなく、
「対話の再起動ボタン」として
戦略的に活用するスキルが求められます。
誠実な態度と正直な説明をベースに、
以下の4つのステップで対応を進めてください。
ステップ1:最初に心からの謝意を述べ、感情面に寄り添う
まずは言い訳を一切せず、相手が不快に感じた
「感情」に対して寄り添います。
「先生、余計なご心配(ご不快な思い)をおかけしてしまい、
大変申し訳ございませんでした」
ステップ2:相手の主張を遮らず、最後まで“聞き切る”姿勢と感謝を示す
ここで「質問型」のコミュニケーションを活用し、
何が怒りの原因だったのかを丁寧に傾聴します。
相手がすべてを吐き出した後に、
感謝の意を伝えます。
「弊社の至らない点、また私の配慮不足を
ご指摘いただき、誠にありがとうございました」
ステップ3:改善への意思と具体的な再発防止策を明確に伝える
相手の怒りの原因(期待の裏切り)が明確になったら、
どう改善するかを提示します。
「今後、二度と同様の事態を防ぐために、
私自身を含めチーム内でこのような
確認プロセスを徹底いたします」
ステップ4:前向きな言葉と「感謝」で締めくくる
最後に、伝えるべき事実があれば誠実に説明し、
未来に向けた前向きな言葉で会話を終えます。
「この度は、私どもに大切な気づきを与えてくださり、
本当にありがとうございました。
今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします」
ここで最も重要なポイントは、
「お詫び(申し訳ございません)」の言葉は、
心を込めて伝えれば最初の1〜2回で
十分だということです。
その後のトークは、
「相手への敬意の気持ち」と
「感謝の気持ち」
を伝えることに重きを置いてください。
謝るべき相手は、これからも深く関わっていきたい人
謝罪とは、自分の非を認めて負けを
宣言するものではありません。
相手との関係性を未来につなげ、
「この先生の診療や患者さんのために、
これからもお役に立ちたい」
という覚悟を示す、
極めて高度で誠実な営業・交渉のアプローチです。
医師の怒りから逃げず、その背景にある
「期待」に正面から向き合うこと。
言い訳や平謝りを捨て、
解毒から感謝へとシフトするステップを踏むこと。
この本質的なコミュニケーション話法を身につけたとき、
絶体絶命のピンチは、
他社のMRには決して築けない
「強固な信頼関係」
を生み出す最高のチャンスへと変わります。
もしあなたが今、医師との関係修復や、
難しい対応に悩んでいるのであれば、
まずは「なぜ今、謝るのか」という
目的を問い直し、相手の期待にどう応えるかを
深く考えてみてください。
その誠実な姿勢こそが、あなたの人間力を高め、
プロフェッショナルとしての確固たる信頼を
築き上げるのです。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
