【説明しない勇気57】医師の「激しい反論」に言葉が詰まるあなたへ。不快感を与えずに主導権を握る「魔法の接続表現」
医局の空気が凍りつく瞬間―なぜ「正しい説明」が裏目に出るのか
製薬業界の最前線で活躍するMRやMSLの皆さん。
医師との面談中に、予期せぬ角度から
激しい反論を浴びせられ、
頭が真っ白になった経験はありませんか?
「そのエビデンス、現場の臨床感覚と乖離しているんじゃないか?」
「薬価が高すぎて、うちの患者さんには勧めにくいよ」
こうした言葉を投げかけられた瞬間、
私たちはつい焦って
「いえ、実はこのデータによれば……」
と、力説による上書きを試みてしまいます。
しかし、「どう返答すれば相手を不愉快にせずに
自分の主張を伝えられるか」というのは、
すべてのMRやMSLに共通する深い悩みです。
こちらが熱弁を振るえば振るうほど、
医師の表情は険しくなり、結局は
「また検討しておくよ」
という決まり文句で会話のドアが
ピシャリと閉ざされてしまう。
かつての私もそうでした。
反論を「打ち負かすべき敵」と捉え、
論理の正当性で相手をねじ伏せようとしては、
心の距離を広げていたのです。
特に医師の言葉には強固なロジックと
豊富な臨床経験が裏打ちされており、
その反論は私たちにとって心理的にも
大きな重圧を伴います。
だからこそ必要なのは、
小手先の営業トークではなく、
話の流れを劇的に変える
「受け答え」の技術。
なかでも、“接続表現”の使い方ひとつで、
あなたの言葉に流れと方向性を
与えることができるのです。
対立を調和に変える「つなぎ方」の科学と2つのアプローチ
反論に直面した際、多くのMR・MSLが陥る罠は、
言葉を「逆接」で打ち返そうとすることです。
「でも」「しかし」「お言葉ですが」……。
こうしたフレーズをうっかり口にした瞬間、
コミュニケーションは「対立構造」へと変質し、
反論する医師を逆撫でしてしまいます。
論理的思考に優れたハイレベルな医師を相手にするからこそ、
私たちは「接続詞」と「接続表現」の持つ力に
注目しなければなりません。
-
反論を無力化する受けとめるための「…確かに」
反論を受けた場面で最も避けるべきは、
相手の意見を否定することです。
そこで絶大な効果を発揮するのが
「確かに」
という接続表現です。
ここで重要なのは、相手の主張に同意する(イエスと言うこと)
必要は全くない、ということです。
同意ではなく、相手の立場ならそう感じるであろう
という事実に対して
「確かにそうお考えになるのはごもっともです」
と言って受けとめ、共感を示すのです。
心理学的に見ても、人は自分の立場を一度尊重されると、
相手の話を聞こうとする心理的余裕が生まれます。
「確かに」という言葉は、医師の鋭い牙を和らげ、
対話の主導権をこちらに引き寄せるための
ファーストステップとなります。
- 空気を壊さず本題へ引き戻す「話題を変える接続表現」
一方で、現場では医師からごく軽い反論を受けたり、
別の方向へ話がそれてしまったりする場面も
しばしばあります。
すべてを真正面から受け止め、
聞き切る必要はありません。
このようなケースでは、会話の雰囲気を壊さずに、
やんわりと本題へ戻したり話題を切り替えたりする
言い換えの技術が求められます。
ここで役立つのが、以下のような接続表現です。
「ところで……」
「そんな中で……」
「ちなみに……」
これらのフレーズは、会話のクッションとなり、
流れを強引に断ち切ることなく
建設的なディテーリングへと自然に誘導する効果があります。
実務で差がつく!「接続の技術」が生み出す成功のトーク
では、実際のコミュニケーションの現場で、
これらの接続表現をどのように使い分ければよいのでしょうか。
失敗例と成功例を対比させながら、
明日からの訪問で使える具体的な話法を解説します。
【失敗例:対立を生む逆接型トーク】
医師:
「この薬剤は副作用の頻度が少し気になるんだよね」
MR:
「ですが先生、治験データ上は~~~で、効果の方は~~~~です!」
分析:
「ですが」と言われた医師は、
自分の臨床的な懸念を否定されたと感じます。
結果として、いくら正しいデータを提示しても
医師の耳には届きません。
【成功例:調和を生む接続型トーク】
医師:
「この薬剤は副作用の頻度が少し気になるんだよね」
MR:
「確かに、安全性を第一に優先される先生の立場からすれば、最も慎重に検討されるべきポイントでございます。」
「そんな中で、実際にこのリスクを最小限に抑えながら処方されている管理基準のデータが新しく出たのですが・・・」
「ちなみに先生、そちらのレポートはもうご覧になられましたでしょうか?」
分析:
まず「確かに」で医師の懸念を100%受け止め、
心理的リアクタンス(反発心)を解消します。
その上で「そんな中で」「ちなみに」と自然に話題を繋ぐことで、
不快感を与えずに、こちらの新しい情報提供(ディテーリング)の
土俵へと自然に移行させています。
このように、優れた交渉は巧妙な質問型のアプローチと同様に、
巧妙な“つなぎ”によって成り立っているのです。
言葉の橋を架けられる人だけが、医師のベストパートナーになれる
反論を受けたとき、最も大切なのは
「論破」ではなく「調和」を目指す発想です。
反論とは、医師が自分の意見や立場、
そして目の前の患者さんを守ろうとする自然な反応であり、
その背景にある意図を理解しようと努める姿勢こそが、
交渉力の差であり、人間力の差となります。
「でも」「しかし」を封印し、まずは「確かに」で相手の立場を受容する
話の脱線や軽い反論には、「ところで」「ちなみに」で美しく軌道修正する
接続表現をインフラとして使いこなし、対立ではなく調和の空間を創る
会話の“接続”を少し工夫するだけで、
これまであなたを阻んでいた「反論の壁」は、
深い信頼関係を築くための「対話の起点」へと生まれ変わります。
言葉の橋を架けられるプロフェッショナルを目指して、
あなた自身の提案力を引き出す“接続表現の力”を、
ぜひ次回の面談で試してみてください。
医師との関係性が驚くほどスムーズに前進し始めるのを
実感できるはずです。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
