【説明しない勇気69】言い訳にしか聞こえない謝罪を卒業する。医師の頑なな心を溶かし本音を響かせる「2つの接続詞」
形式的なお詫びが医師との距離をさらに広げてしまう現実
製薬業界の最前線で日々タフな交渉に臨んでいるMRやMSLの皆さん、
そしてメンバーの同行やマネジメントで組織を支えるリーダーの皆さん。
医師とのコミュニケーションにおいて、予期せぬ不手際や誤解が生じてしまったとき、
次のような課題に直面したことはないでしょうか。
「申し訳ありません」
「以後、十分に気をつけます」
と、マニュアル通りの言葉を並べて何度も頭を下げているのに、
先生の表情は一向に晴れない。
それどころか、
「もういいよ、その話は」
と冷ややかにあしらわれ、次のディテーリングの機会(アポイント)すら
もらえなくなってしまった……。
私自身、現役時代にはトラブルが発生するたびに、
激しい焦りから形式的なお詫びのトークを連発し、
先生の懐に入るどころか心のシャッターを完全に下ろされてしまった
苦い経験が何度もあります。
特に医療のプロフェッショナルである医師は、
極めて強いプライドと患者さんの命を預かる責任感を持って
日々診療に臨んでいます。
そのため、こちらの保身や会社都合が透けて見えるような、
単なる事実説明や型通りの謝罪では決して納得してもらえません。
では、謝罪という最も繊細な交渉の場で、
どうすれば相手の感情を鎮め、失われた信頼を
劇的に取り戻すことができるのでしょうか。
長年の現場経験から導き出した、
医師の心を動かすコミュニケーションの神髄についてお話しします。
論理よりも感情が支配する場を制する「感情の解毒」と「言葉の順序」
謝罪の場において、何よりも知っておくべき鉄則があります。
それは、「人間は感情をすべて吐き出したあとに初めて、
相手の言葉を受け取る準備ができる」という心理的なメカニズムです。
いくらこちらに正当な理由や致し方ない事情があったとしても、
相手の心が怒りや不信感で満たされている段階では、
どんなに精緻なロジックを並べても「言い訳」にしか聞こえません。
まずは相手の感情の受け皿となり、
その毒を綺麗に中和すること(解毒)が不可欠です。
この「感情の解毒」を最もスムーズに行い、
かつこちらの真意を誠実に届けるために開発されたのが、
共感と自己開示を組み合わせた
「確かに……実は……」
という魔法の言葉の流れです。
この二大接続表現の設計図は、
次のステップに沿って展開されます。
ステップ①:「確かに」で相手の感情を丸ごと受け止める(共感と傾聴)
医師から厳しいお叱りを受けた際、まずは
「確かに先生のおっしゃる通りです」
「先生のお立場からすれば、確かにそのように受け止められたことと存じます」
と言葉を紡ぎます。
ここでは相手の意見に無理に同意する必要はありません。
ただ、相手がそう感じたという事実を否定せずにそのまま受け入れ、
徹底的に聞き切る姿勢を示します。
ステップ②:相手の心が“空っぽ”になった隙間に、真意を届ける(自己開示)
自分の主張や感情をすべて吐き出し、
それが目の前の担当者にしっかりと受け止められたと実感したとき、
医師の心には「十分に聞いてもらえた」という満足感とともに、
ふっと小さな“隙間(空白)”が生まれます。
その隙間を狙って、
「実は、私どもとしては〇〇という状況を想定しておりまして……」
と、こちらの真意や背景にある事情を静かに伝えていくのです。
この言葉の順序を徹底することで、
会話は一方的な言い訳の応酬ではなく、
双方向の血の通ったコミュニケーションへと進化します。
こちらの誠実さや真摯さが言葉の節々ににじみ出ることになり、
謝罪の成否を180度変える決定的な要因となるのです。
明日からの訪問で即実践できる「言葉の設計」フレームワーク
では、この「確かに……実は……」のフレームワークを、
実際の現場でどのように活用すればよいのか、
よくある失敗パターンと成功パターンを対比させて具体策を示します。
【失敗例】:感情を無視してロジックを押し返す「YES・BUT話法」
医師:
「今回持ってきた副作用のデータ、
なぜ初めから持ってこなかったんだ!隠蔽しようと思ったんだろ?!」
担当者:
「いいえ、先生、これはグローバルで承認された最新の解析結果であり、
私どもとしては決して隠蔽の意図はなく、機会があればご紹介しようと……」
分析:
すぐに「いいえ」という逆接で医師の指摘を否定しています。
これでは医師は「自分の主張を軽視された」と感じ、
さらに怒りを増幅させる結果となりかねません。
【成功例】:感情を中和し味方に変える「確かに……実は……話法」
医師:
「今回持ってきた副作用のデータ、
なぜ初めから持ってこなかったんだ!隠蔽しようと思ったんだろ?!」
担当者:
(深く一度頷き、落ち着いたトーンで相手の目をしっかりと見つめて)
「まい、確かに先生にはこの副作用データは今回初めてご紹介するもので
先生がそのような懸念を感じられるのはごもっともかと存じます。」
「私どもの配慮に欠けた情報提供により、
ご不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません。」
(その後も医師の主張を聞き切った後に・・・)
「実は、この副作用データはグローバルで承認された最新の解析結果で、
本来でしたら少しでも早く先生方にお届けしたかったのですが、
社内審査に時間がかかっておりましたので、
今回、先生の率直なご意見をお聞きしたかったという状況です。」
分析:
「確かに」で医師の知性と専門性を最大級に尊重して受け止めています。
医師の心が空っぽになったタイミングを見計らって「実は」と切り出すことで、
こちらの真意が言い訳ではなく「誠実な意図」として
医師の心にスムーズに染み込んでいきます。
魔法の言葉を操る人だけが、医師の「生涯のパートナー」になる
ディテーリングのスキルを高めたり、
最新の学術知識を頭に叩き込んだりすることは
MRやMSLとして当然の努力です。
しかし、どれほど優秀な人間であっても、
実務においてミスや手違いを100%防ぐことは不可能です。
だからこそ、トラブルが起きた最悪の瞬間に、
どのような「言葉の設計」ができるか。
そこに、あなたの真の交渉力、
ひいては一人のビジネスパーソンとしての
人間力が如実に現れます。
- 形式的なお詫びを捨て、医師の「感情の受け皿」になる覚悟を持つ
- 「確かに」の言葉で相手の主張を否定せずに受け止め、最後まで徹底的に聞き切る
- 医師の心に生まれた隙間に、「実は」という言葉とともに誠実に自己開示を行う
この「確かに……実は……」という美しい調和の流れを身につけることで、
謝罪の場は「自らの過ちをただ詫びる後ろ向きな時間」から、
「お互いの本音をぶつけ合い、より深い信頼関係を再構築するための前向きな時間」
へと劇的に変貌します。
明日、もしあなたが医局のドアを叩くときに、
気まずいトラブルや医師からの厳しい反応が予想されるなら、
慌てて新しいパンフレットを用意するのを止めてください。
そして、この二大接続表現の設計図を心の中で静かに思い描いてみてください。
あなたの放つ言葉に誠実な心が宿ったとき、
目の前の先生は、あなたを単なる「メーカーの営業担当者」ではなく、
自らの診療を支えてくれる「生涯のパートナー」として
再評価してくれるはずです。
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
