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【説明しない勇気96】医師を動かそうとするほど、なぜ動いてくれないのか?――MR・MSLの交渉術を変える「4つの心理段階」

「あれだけ説明したのに、なぜ先生は動かない?」その原因は話し方ではありません

MRやMSLの皆さんなら、一度はこんな経験が

あるのではないでしょうか。

「新しいエビデンスを丁寧に説明したのに、

 先生の反応が薄い」


「メリットを整理して提案したのに、

 『考えておきます』で終わった」

「こちらは良かれと思って話しているのに、

 なぜか売り込みのように受け取られてしまう」

私自身、製薬業界で営業、マーケティング、

学術、教育研修などに携わってきましたが、

この問題は

「説明スキルが足りないから」

と単純に考えないほうがよいと思っています。


人を動かすために、情報量を増やせばよいわけではありません。

むしろ重要なのは、相手が自分自身で

「感じ、思い、考えたうえで行動する」

という心理の順番を尊重することです。

この順番を理解すると、MR・MSLのディテーリングや

交渉の見え方が大きく変わります。



人は「思ったとおりにしか動かない」

私は、人の行動を考えるうえで

非常にシンプルな原則があると思っています。

人は、自分が


「思った通りにしか動かない」


ということです。


もちろん、外部から命令されたり、

環境によって行動を強制されたりすることはあります。

しかし、その場合でも本人の中には

「従ったほうが自分にとってよい」

という「思う」からです。

つまり、外からいくら情報を与えても、

それが相手の心の中で意味を持たなければ

行動にはつながりません。

ここで営業やマーケティングでよく知られている

AIDMAを思い出す方も多いでしょう。


Attention(注意・認知):商品やサービスの存在を知る段階

Interest(興味・関心):商品に関心を持ち、情報を知りたくなる段階

Desire(欲求):商品を欲しい、使いたいと思う段階

Memory(記憶):商品のことを記憶にとどめる段階

Action(行動):実際に店舗やECサイトで購買する段階


という流れです。


これは広告や販促など、

一方向から情報を届ける場面では

非常に有用な考え方です。

しかし、医師との面談には、

そのまま当てはめにくい面があります。


医師は情報を受動的に受け取る人ではありません。

自ら診断し、治療を判断し、エビデンスを吟味する専門家です。

ましてや、製薬会社から届けられる情報には、

正確性や根拠性が強く求められます。

だからこそ、

「こちらが伝えたい情報」

を順序よく説明するだけでは、

医師の内面にある意思決定までは動かせません。



「感じる→思う→考える→行動する」の順番を飛ばしていませんか?

そこで私が重視しているのが、

4つの心理段階です。


Feel(感じる)

→Think(思う)

→Consider(考える)

→Act(行動する)


たとえば、冷房の効いた部屋で「寒い」と感じる

次に「少し冷えすぎているかもしれない」と思う

そのうえで「上着を着ようか、温度を上げようか」と考える

そしてエアコンのリモコンを手に取る(行動する)。

人の行動には、このような心の準備があります。


ところがMRの面談では、しばしば最後の

「Act」を促そうとしまいます。

「先生、ぜひ使ってみてください。」
「この患者さんにはこういう処方はいかがでしょうか?」
「ご採用いただけませんか?」

こちらは提案のつもりでも、医師の中で

「感じる」「思う」「考える」

が十分に起きていなければ、心は追いつきません。

そして「ぜひ使ってください」と行動を促せば

その結果として出てくるのが、

「ちょっと考えておきます

という言葉です。


これは必ずしも否定ではありません。

むしろ、心理的には

「まだそこまで考える準備ができていない」

というサインかもしれません。

だから、いきなり提案し行動を促すのではなく、

提案する前のプロセス(感じる、思う、考える)

を丁寧に確認する必要があります。



「質問」は相手の頭の中に、小さな“気づき”を生み出す

では、そのためにMR・MSLができることは何でしょうか。

相手が「感じる→思う→考える」プロセスを

「質問」を通じて促していくのです。

質問には、相手自身に考えさせる絶大な力があるのです。

「最近、この課題についてどのように感じていますか?」

「今の治療方針で、思われますか?」

「もし改善できるとしたら、どうすればよいとお考えですか?」

こうした質問によって、医師自身が

自分の経験や課題を言葉にしていきます。


重要なのは、こちらが

「問題はこれです」

と伝えることではありません。

相手の中に、

「そういえば、ここは少し気になっている」
「確かに、この場面では困ることがある」
「今のままでよいのだろうか」

という気づきを生み出すことです。

ここに質問型のコミュニケーションの

大きな価値があるのです。



質問の技術より先に、「好意」を整える

ただし、ここで一つ重要なことがあります。

質問型だからといって、的確な質問さえすれば

よいわけではありません。

質問される側が

「この人は自分を理解しようとしている」

と感じていなければ、質問は簡単に尋問へ変わります。

特に医師は、日々さまざまなMRやMSLと接しています。


そのため、

「この面談は自分のためなのか、

 それとも会社や製品を売るためなのか」

を敏感に感じ取ります。

そこで必要になるのが

相手に好意を持って質問することです。

面会前に

「この先生のお役に立ちたい」

と本気で思えているか。

「この先生はどんな考えを持っているのだろう」

と純粋な好奇心を持てているか。


これは単なる精神論ではありません。

相手への気持ちは、表情、声のトーン、間の取り方、視線など、

言葉以外の部分にも表れます。

逆に「今日は何とかこの情報を伝えなければ」という

自分側の焦りが強くなるほど、

質問もトークも不自然になりやすいものです。



明日の面談を変える「F→T→C→A」チェック

面談前に、次の4つだけ確認してみてください。


F(Feel:感じる):

この先生は今、何を感じているだろう?

まず相手の状況を想像し確認します。


T(Think:思う):

この先生は、その状況をどう思っているだろう?

自分の思い込みではなく、医師自身の認識を知ることを意識します。


C(Consider:考える):

この先生は、どう考えるのだろう?

「先生はどうお考えですか?」と質問します。


A(Act:行動する):

行動を促すのは、その後、

最後に提案です。



失敗する面談では、いきなり

A(Act:行動する)の提案をしてしまいます。

相手が

「いいんじゃないの」

のような肯定的な返答があると、

思わず「行ける!」と思って

「使ってください」

「ご検討ください」

と行動を促してしまいます。

すると、医師は必ずC(Consider:考える)

へ戻ってしまうので

「考えておきます」

という断り文句が返ってくるのです。


一方、うまくいく面談では、

「いいんじゃないの。」

という返答があっ場合、


「なぜそう感じるのですか?」

「具体的にどう思われていますか?」

「例えば、どう考えますか?」


などと深掘りして、


F(Feel:感じる)

T(Think:思う)

C(Consider:考える)


を丁寧につくり、その結果として

相手のA(Act:行動)に繋がっていくです。



「人を動かす」のではなく、「自分で動きたくなる状態」をつくる

交渉術という言葉を聞くと、相手を説得するテクニックを

イメージするかもしれません。

しかし、医師とのコミュニケーションにおいて、

私が大切にしたいのは逆です。

相手を動かすのではなく、

相手が自分で動きたくなる状態をつくる。

そのためには、熱心に説明するより、

丁寧な質問によって相手の思考を動かすほうが

効果的なのです。


次回は、ここからさらに踏み込みます。

同じ「質問型」の営業・交渉でも、

SPIN話法とは何が違うのか。

そして、質問そのもの以上に重要な要素は何なのか。

MR・MSLのディテーリングを、

「情報を伝える場」から

「医師と一緒に意味をつくる場」

へ変えていくための具体的な考え方を

掘り下げていきます。


医師の信頼を勝ち取るための

質問型交渉術』について

さらに深い学びを始めてみませんか?

 

 

 

 

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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