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【説明しない勇気97】「質問」をすればするほど陥る落とし穴――医師との信頼を生む「好意・質問・共感」の交渉術

医師を動かすのではなく、「自分で動きたくなる状態」をつくる

前回は、人の行動には

「感じる→思う→考える→行動する」

という自然な心理の流れがあることをお伝えしました。

MRやMSLがいきなり提案をしても、

「ちょっと考えておきます」

と言われてしまうのは、

相手の中でまだ

「感じる」「思う」「考える」

が十分に進んでいないからかもしれません。

だからこそ、説明より先に質問をする。

しかし、ここにも重要なポイントがあります。

質問なら何でもよいわけではありません。

質問の数を増やしただけで、

医師とのコミュニケーションが深まるわけではないのです。

むしろ、質問の仕方を間違えると、

対話は簡単に「尋問」に変わってしまいます。

今回は、質問型の交渉術を実践するうえで

本当に重要な、

「好意・質問・共感」

という3つの軸について考えてみます。

 

SPIN話法との違い――「質問すること」そのものを目的にしない

営業や交渉を学んでいるMR・MSLなら、

SPIN話法をご存じの方も多いでしょう。

Situation(状況)

Problem(問題)

Implication(示唆)

Need-payoff(解決)

の順番で質問し、相手自身に課題や

解決の必要性を認識してもらう方法です。

非常に体系的で、営業スキルとして優れた考え方です。

ただし、私は医師とのコミュニケーションにおいて、

これを「型どおり」に使うことには

注意が必要だと考えています。

例えば、医師が、

「最近、この薬は少し効きが弱いと感じています」

と話したとします。

ここで、

「それによって、どんな問題がありますか?」

「その問題を放置すると、どんな影響がありますか?」

と機械的に質問を重ねれば、

論理的には正しいかもしれません。

しかし、相手からすると、

「なぜそこまで聞いてくるのだろう?」

「何か結論に誘導されているのでは?」

と感じる可能性があります。

これは心理学でいう「心理的リアクタンス」近い状態です。

自分の自由な判断を誘導されていると感じると、

人は無意識に抵抗したくなります。

特に医師は専門家としての自律性が高く、

「自分の判断は自分でする」という意識が強い職種です。

だからこそ、質問型の交渉術では、

質問の技術だけを磨いても不十分なのです。

 

「好意・質問・共感」の3つが揃って、初めて質問が機能する

私が重視しているのは、

好意 → 質問 → 共感

という循環です。

最初にあるのが「好意」です。

これは「医師から好かれよう」という意味ではありません。

むしろ逆です。自分が相手の医師に好意を持って

「この先生のお役に立ちたい」

という気持ちを、自分の中につくることです。

医師から好かれようとすると、

どうしても「嫌われないようにしよう」

という意識が強くなります。

そうすると、医師の要求に何でも合わせてしまい、

本当に必要な場面で

「それは違います」と言えなくなることがあります。

しかし、自分が相手に好意を持ち

本当に相手の役に立ちたいのであれば、

必要なときにはNOと言えます。

「先生、その方法は今回の患者さんには

 あまり適さないと思います」

と率直に伝えることもできる。

一見すると厳しい言葉ですが、

そのほうが長期的には信頼につながります。

信頼とは、相手に合わせ続けることではありません。

相手のためを思って誠実に向き合うことです。

そして、その気持ちは質問にも表れます。

好意があれば、質問は「情報を取るための尋問」ではなく、

「もっと相手を理解したい」という自然な関心になります。

 

「共感」は相づちではない――医師の言葉の奥にある感情を受け取る

質問のあとに重要になるのが「共感」です。

医師が何かを話してくれたとき、

「そうですね」

「なるほど」

と相づちを打つだけでは、十分な共感とは言えません。

大切なのは、

言葉の奥にある感情や価値観まで受け止めることです。

私は傾聴を3つのレベルで考えています。

一つ目は「言語的傾聴」。

「なるほど」

「そういうことですね」

と言葉で反応することです。

二つ目は「身体的傾聴」。

うなずき、視線、姿勢、間など、身体全体で

「聞いています」と伝えることです。

そして三つ目が「感情的傾聴」。

「それは本当に大変でしたね」

「それは先生としても悩ましいですよね」

「それはすごい経験ですね」

というように、相手の感情にこちらの感情を寄せることです。

この3つが揃うと、医師は

「この人は自分の話を聞いてくれている」だけではなく、

「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」

と感じやすくなります。

ここが、単なる面談と信頼関係のある面談を分けるポイントです。

 

5段階で考える――提案は「最後のピース」にする

では、実際にどのように会話を

組み立てればよいのでしょうか。

私は、質問型の面談を次の5段階で考えます。

①現状

「今はどのような対応をされていますか?」

まず、現在地を確認します。

②欲求

「今後、どうしていきたいとお考えですか?」

現状と理想のギャップを明確にします。

③解決策

「そのために、今どんな取り組みをされていますか?」

相手がすでに試していることを確認します。

④欲求の再確認

「そこが改善できたら、どんな状態になるでしょうか?」

ここで未来を具体的にイメージしてもらいます。

⑤提案

そして最後に、

「実は、その点について参考になる情報があります」

と情報提供につなげます。

この順番が大切です。

MRがよくやってしまうのは、

②の「欲求」が見えた瞬間に、

すぐ⑤の提案へ移ってしまうことです。

「先生は○○で困っている」

「では、弊社製品にはこのメリットがあります」

確かに合理的です。

しかし、相手の中で「本当に変えたい」という思いが

十分に育っていなければ、提案は他人事のままです。

提案とは、相手の気づきを整理する最後のピースなのです。

 

明日の面談で使える「3つの質問」

ここからは、ぜひ日常のディテーリングで使っていただきたい

3つの言葉をご紹介します。

それは、

「なぜ?」
「たとえば?」
「ということは?」

です。

まず「なぜ?」。

これは相手の判断理由を深掘りする質問です。

「なぜそうお考えになったのですか?」

ただし、単独で強く「なぜ?」と言うと、

詰問のように聞こえることがあります。

そのため、

「その理由を教えていただけますか?」

「そうお考えになる背景には、何かありますか?」

など、柔らかくすることが重要です。

次が「たとえば?」。

これは抽象的な話を具体化する質問です。

「患者さんの負担が大きい」と言われたら、

「たとえば、どのような場面でしょうか?」

と聞く。

すると、「患者さんの負担」という言葉が、

具体的な場面や事例へ変わっていきます。

最後が「ということは?」です。

これは話を整理し、収束させる質問です。

「ということは、先生にとって一番重要なのは

 どういうことでしょうか?」

と確認することで、相手自身が考えを整理できます。

 

質問には「深掘り・発散・収束」がある

面談がうまく進まない人は、質問の方向が一つしかありません。

ずっと深掘りしてしまい、尋問のようになる。

あるいは話題を広げすぎて、何を話しているのかわからなくなる。

そこで私は、質問を3方向に分けて考えることをお勧めします。

深掘りなら、

「なぜですか?」

「具体的には?」

「いつ頃からですか?」

です。

発散なら、

「他にはありますか?」

「別の視点ではどうでしょう?」

と広げます。

収束なら、

「ということは、最も重要なのは何でしょう?」

と整理します。

この3方向を意識するだけで、

医師との会話に「リズム」が生まれます。

 

成果を生むのは、質問力より「質問する人のあり方」

失敗する面談では、

「何かニーズを見つけなければ」

という気持ちで質問します。

だから、質問が鋭くても相手には圧力として伝わります。

一方、うまくいく面談では、

「この先生のことをもっと知りたい」

「何かお役に立てることはないだろうか」

という気持ちから質問します。

同じ「なぜですか?」でも、相手が受ける印象は全く違います。

だから、質問型の交渉術で最も重要なのは、

質問のテクニックだけではありません。

自分の心を整えることです。

面会前に少しだけ時間をとり、

「この先生は面白い方だな」
「今日は何を教えていただけるだろう」
「この先生のお役に立ちたい」

と自分の意識を整える。

それだけでも、表情や声、質問の仕方が変わります。

MRやMSLのスキルというと、

製品知識、エビデンス、プレゼン、トーク、交渉術

などに目が向きがちです。

しかし、本当に人の心を動かすのは、

こうした表面的な技術だけではありません。

好意を持って相手を見る。
質問によって相手の考えを引き出す。
共感によって、その言葉を受け止める。

この循環ができれば、面談は「情報提供」から

「対話」へ変わります。

そして、その対話の中で生まれた気づきが、

医師自身の意思決定につながっていくのです。

次に医師と会うとき、ぜひ一つだけ試してください。

「今日は何を説明しよう?」ではなく、

「今日は、この先生から何を聞いてみよう?」

と考えてから面談に入ってみることです。

その問いが変われば、あなたの質問が変わります。

質問が変われば、医師の反応が変わります。

そして、医師の反応が変われば、

MR・MSLとしてのコミュニケーションそのものが

変わり始めます。

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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