【説明しない勇気88】本社の指示通り動いても売れない?MRが現場で「生きた戦略」を創り出す、4つの自分事化アクション
本社のキーメッセージをそのまま喋っても、医師の心には響かないという現実
製薬会社のMRやMSLの皆さん、
そして日々現場の指導にあたるマネージャーの皆さん。
本社から降りてくるプロモーション戦略やディテーリングの
キーメッセージに対して、現場でこのようなモヤモヤを
感じたことはないでしょうか。
「綺麗なスライドとトークスクリプトが用意されたけれど、目の前の先生には全く刺さらない」
「本社のマーケティング戦略通りに説明しているのに、いつも『分かった、検討しておくよ』で会話が終わってしまう」
「現場の厳しい臨床状況を知らない本社の指示に、正直『やらされ感』を抱いてしまっている」
私自身、製薬会社の本社のマーケティング部門で
様々な業務を経験し、現場でも様々な交渉に関わってきました。
その中で痛切に感じるのは、
「本社の描く戦略と、臨床現場のリアルとの間の深い溝」です。
マーケティング調査会社が集めた定性・定量データをもとに、
きれいなフレームワークで描かれた戦略は、
あくまで「仮想の地図」に過ぎません。
その地図を手に、高低差やぬかるみのある
「実際の地形」を踏破するのは、
現場で医師と対峙する皆さん自身です。
だからこそ、どれほど優れた戦略であっても、
現場の判断力と行動力が伴わなければ、
製品の価値が患者さんに届くことはないのです。
「論語読みの論語知らず」になっていませんか?理論を現場の成果に変える4つの実践行動
マーケティングの世界には、
3C分析、SWOT分析、4Pといった
強力な思考フレームワークが存在します。
MRやMSLの研修でも必ず学ぶ基本的な知識です。
しかし、どれだけ頭で理論を理解していても、
実際の面談での一挙手一投足に落ちていなければ
意味がありません。
まさに「論語読みの論語知らず」の状態に陥ってしまうのです。
例えば、ある薬剤の「半減期が短い」という
科学的事実があるとします。
これを文字通り「効果が長続きしない弱み」と捉えるのか、
それとも「迅速に作用が消失するため、
副作用発現時のコントロールがしやすく可逆性に優れる強み」
と捉えるのか。
その判断は、現場の医師が日々抱えている臨床ニーズや、
患者さんの不安を直接聞き取っているMRにしか下せません。
画一的な理論をそのまま押し付けるのではなく、
現場で「生きた戦略」に変えるために、
成果を出している担当者が実践している
4つの行動ステップをご紹介します。
1)「あなた自身の3C」を分析する
一般的な市場分析としての
3C(Customer・Competitor・Company)
ではなく、
「あなた自身が担当するエリアや施設」
に当てはめます。
あなたの目の前にいる医師(Customer)、
その施設で処方されている競合薬(Competitor)、
そしてあなた自身の強みや自社リソース(Company/自分)
を掛け合わせるのです。
これにより、
「この施設で自分が注力すべき独自の戦場」
が鮮やかに浮かび上がります。
2)「あなた自身」をSWOT分析・クロスSWOTする
担当製品の特徴だけでなく、
自分自身の強み(S)や弱み(W)、
担当エリアの機会(O)や脅威(T)
を冷静に整理します。
例えば、
「自社製品はエビデンスで競合に劣る(W)が、
自分には地域の基幹病院との強いパイプがある(S)」
といった掛け合わせ(クロスSWOT)を行うことで、
「積極的攻勢」に出るのか
「改善型戦略」を取るのか、
具体的な行動方針が見えてきます。
3)自分の手が届く「P(主にPromotion)」に集中する
マーケティング・ミックスの4P(製品・価格・流通・販促)や6Pのうち、
現場のMRやMSLが直接コントロールできるのは、
主に「Promotion(販促・コミュニケーション)」の領域です。
価格や製品スペックを変えることはできなくても、
自分がどの資材を選び、どのような順番で情報提供を行うかという
「Pの最適化」は、皆さんの手の中に委ねられています。
4)「Promotion」の質を「質問型交渉術」で極限まで高める
本社から渡された資材をただ読み上げるだけの
一方向の説明(プレゼン)は、Promotionとは言えません。
相手の感情や背景を引き出す
「質問型コミュニケーション」を軸とし、
WEB面談やデジタル資材、生成AIなどのツールを
「医師の気づきと納得」のために戦略的に使いこなすこと。
これこそが、現場でできる最も強力な価値創出です。
「やらされ感」を捨て、自ら市場を動かすMR・MSLへの進化
本社の戦略に「やらされ感」を抱いて動くのか、
それとも自ら仮説を立てて現場を動かすのか。
このモチベーションと意識の差が、
結果として医師からの信頼の差となって現れます。
心理学的にも、人間は
「他者から指示された行動(外発的動機付け)」
よりも、
「自分で決めた行動(内発的動機付け)」
に対して高い集中力と責任感を発揮します。
「今日、自分はこの医師に対して何を話し、
何を質問し、どんなニーズを持ち帰るのか」
この問いを毎回のアポイントの前に
自分に投げかける習慣をつけてみてください。
たとえ本社のプロモーション戦略が不完全であったとしても、
現場のあなたが医師の声を丁寧に聴き取り、
仮説を修正しながら柔軟に対話(ディテーリング)を
組み立てることができれば、成果は後から必ずついてきます。
本社から提示された枠組みをベースにしながらも、
目の前のドクターの治療信条や患者像に合わせて
「自分なりのアプローチストーリー」を再構築する。
このプロセスこそが、皆さんを単なる「情報伝達者」から、
戦略的思考を備えた
「価値創出のパートナー」
へと成長させるのです。
現場の熱と技が医療を変える。明日から始める「自分軸」のディテーリング
優れたマーケティングの成果とは、
綺麗に作られたプレゼン資料から生まれるのではなく、
現場での泥臭くも地道な対話と、
確かな仮説検証の積み重ねによってこそ生まれます。
- 本社の戦略を「仮想の地図」と捉え、現場のリアルな地形に合わせて自分自身でアレンジする
- 3CやSWOTなどのフレームワークを「自分自身や担当エリア」に当てはめて具体策を導き出す
- 「質問型交渉術」を軸にPromotionの質を高め、一方的な説明から双方向の対話へ転換する
「できる人」が最初から特別なスキルを
持っていたわけではありません。
現場で悩み、仮説を立て、目の前の医師と
誠実に向き合い続けた「やる人」が、
徐々に戦略的な力を身につけていくのです。
今、現場で現場ならではの課題に向き合い、
泥臭く工夫を重ねている皆さんなら、
将来どのようなポジションに立ったとしても、
必ずや市場を動かす本物の戦略を描けるようになります。
明日からの訪問やWEB面談に向けて、
まずは「今日、目の前の先生から引き出したい本音は何か?」
という問いを自分に投げかけることから始めてみてください。
あなたのディテーリングに主体的な熱と技が宿ったとき、
医師はあなたを信頼できる最高のパートナーとして
選んでくれるはずです。
現場のコミュニケーション力を飛躍的に高め、
医師から「あなたと話すと新たな気づきがある」
と言われるための具体的な「質問型トークの組み立て方」や、
チーム全体の戦略思考を磨くコンサルティングについて、
さらに深い学びを始めてみませんか?
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
