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【説明しない勇気52】反論の「裏側」に眠る本音を掘り起こす。医師が自ら納得し、処方を決断するための「深層質問」とは?

「受け止めた」その先に待っている、真の合意形成への道

前回は、医師からの反論に対して「機転を利かせて切り返す」ことの危うさと、まずは傾聴と共感を持って「受け止める」マインドセットの重要性についてお伝えしました。

反論を卓球のラリーのように打ち返すのではなく、一度自分のミットにしっかりと収めることで、医師との間の心理的な対立を解消するのが最初のステップです。

しかし、ただ受け止めるだけではディテーリングは前に進みません。大切なのは、受け止めた後に「どのようにして反論の背景にある『本音』にたどり着くか」、そして「いかにして先生自らに納得の答えを導き出してもらうか」という技術です。

今回は、反論を「信頼」と「成果」へと転換させるための、具体的かつ実践的な対話のステップを解説します。

 

反論の「正体」を突き止める3つの質問ステップ

医師が口にする「安全性が心配だ」「効果が不十分だ」といった言葉は、実は氷山の一角に過ぎません。その水面下には、過去の苦い経験や、特定の患者さんへの配慮、あるいは現状を変えることへの漠然とした不安が隠れています。これらを解きほぐすためのステップとして有効なのが「なぜ」「たとえば」「ということは」の3つの言葉です。

 

  1. 「なぜ?」

反論を受け止めたら、すぐに根拠のデータを説明したりせず、その反論が「なぜ?」「どこから来ているのか?」を確認します。

「先生がそのように懸念されるのは、どのような点からでしょうか?」

「過去に何か苦労されたご経験があるのでしょうか?」

 

  1. 「たとえば」

反論の背景などをより具体化させるための質問をします。

「先生がそのように懸念されるのは、たとえばどのような患者さんでしょうか?」

「具体的にはどういうことでしょうか?」

このような質問により、抽象的だった「副作用への不安」が、「高齢の腎機能低下患者における低血糖リスク」といった、具体的な解決すべき課題へと変わります。

 

  1. 「ということは」

相手の言葉の背景が見えてきたら、一度内容を整理して確認します。

「なるほど、ありがとうございます。ということは、先生にとって、その点は、どのような意味付けがあるのでしょうか?」

このようなプロセスが、交渉における「合意の種」となります。先生から本音の言葉が引き出せれば、反論はすでに「採用するための条件」へと変化しているのです。

 

反論を「信頼」という名の資産に変えるために

製薬業界におけるコミュニケーションは、単なる「情報のデリバリー」ではありません。医師というプロフェッショナルが抱える「責任」や「懸念」を分かち合い、共に解決策を探るプロセスです。

機転の利いた切り返しで一時の勝利を得たとしても、そこに「共感」がなければ、先生の心の中にあなたの居場所はありません。一方で、反論を丁寧に受け止め、質問によってその奥にある思いをくみ取ったとき、医師はあなたを「単なる担当MR・MSL」ではなく、「自分の診療を深く理解してくれる不可欠なパートナー」として認識し始めます。

反論は、あなたが医師の懐に深く入り込むための「最高のチケット」です。そのチケットをどう使うか。それは、あなたの「説明したい」という衝動を抑え、相手を「理解したい」という勇気を持てるかどうかにかかっています。

 

説明しない勇気が、医師の心を動かす

今回、お伝えしてきた「反論への対処法」。その真髄は、相手を説得することではなく、相手が自ら納得し、決断するための「環境」を整えることにあります。

 

「なぜ」で、反論の原因を探る

「たとえば?」によって、より具体的な「背景」や「真意」を掘り起こす

「ということは?」で問題点を整理し解決策を共に創るステージへと導く

 

このプロセスを繰り返すことで、あなたのディテーリングは「売り込み」から「価値ある相談」へと進化します。

明日、もし医師から厳しい言葉が返ってきたら、それを「切り返し」の合図ではなく、「対話」の合図として受け取ってください。その瞬間、あなたと先生の信頼関係は、これまでにないほど強固なものへと変わり始めるはずです。

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長職、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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