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【説明しない勇気94】「説明がうまいMR」ほど、なぜ医師との会話で苦戦するのか?

「これだけ説明したのに、なぜ響かない?」――多くのMR・MSLが抱える違和感

「先生にきちんと説明したのに、反応が薄かった」
「エビデンスを丁寧に説明したら、逆に反論された」
「伝えたい情報があるのに、そこまで話す前に面談が終わってしまった」

MRやMSLとして活動していると、

こうした経験は決して珍しくありません。

 

私自身、製薬業界で営業、マーケティング、学術、教育研修など

さまざまな立場を経験してきました。

その中で感じるのは、こうした問題を

「話法」や「説明スキル」の不足だけで

片づけてはいけないということです。

 

むしろ、問題はもっと根本的なところにあります。

「何を説明するか」から考えてしまっていることです。

医師とのコミュニケーションでは、説明する能力以上に、

「何を聞くか」という交渉術が重要になります。

 

 

 

 

医師は「情報を受け取る人」ではなく、「情報の価値を判断する人」

医師とのディテーリングが難しい理由を考えてみましょう。

医師は、患者さんを診療しながら、

研究、学会、教育、院内業務などにも対応しています。

しかも、医療情報については、

その正確性や根拠を厳しく見ています。

 

つまり、医師にとって面談とは、

「製薬会社から情報を教えてもらう時間」

ではありません。

「その情報が自分の診療にとって意味があるのか」

を判断する時間なのです。

ここには、一般的な営業とは異なるパワーバランスがあります。

 

製薬業界では、営業担当者が商品を説明し、

顧客がそれを聞いて判断するという一般的な構造とは違い、

顧客である医師側が大きな主導権を握って

必要な情報か否かを判断しています。

 

そのため、こちらがどれほど熱心に話しても、

医師の関心や問題意識と接続していなければ、

「自分には必要のない情報」

と判断されてしまいます。

 

心理学的に考えても、

人は自分の意思とは無関係に情報を押し込まれると、

無意識に抵抗を感じやすくなります。

特に専門性の高い医師に対して、

一方的に「この情報が重要です」と伝え続ければ、

「自分の判断を誘導されている」

という感覚につながることがあります。

 

だからこそ、製薬のコミュニケーションでは、

説明量を増やすことが

必ずしも信頼につながるわけではありません。

 

 

 

 

「説明」すると反論されるのは、MRの能力不足ではない

ここで、ぜひ覚えておいていただきたいことがあります。

医師から

「今は困っていません」

「それは知っています」

「他社からも聞きました」

と返されたとき、それを自分の説明力不足だと

考えないでください。

 

問題は、説明の内容ではなく、

説明に入るタイミングと順番にある可能性があります。

 

たとえば、

「先生、最近○○のデータが出まして……」

と始めた場合、医師がそのテーマを重要だと思っていなければ、

その瞬間に「聞く理由」がありません。

 

一方で、

「先生、最近○○の患者さんについて、

 治療方針を変えられたケースはありますか?」

と質問から入れば、医師自身が現在の診療や判断について

話すことができます。

ここで重要なのは、質問が単なるアイスブレイクではない

ということです。

 

質問によって、医師の「思考の土台」を知るのです。

何を重視しているのか。
どこに困っているのか。
どのような基準で治療を選択しているのか。
どんな情報なら価値を感じるのか。

これらは、こちらが説明しているだけでは見えてきません。

だから私は、MRやMSLの面談準備では、

「今日は何を説明しようか?」だけではなく、

「今日はこの先生から何を聞こうか?」

と考えることを勧めています。

 

 

 

 

「話したい情報」があるときほど、最初に質問する

これはMRにとって、特に重要な考え方です。

新しい有効性データが出た。
新しいエビデンスを紹介したい。
製品の特徴を伝えたい。

そう思うほど、面談の冒頭から話したくなります。

しかし、話したい情報があるときほど、先に質問をして状況を聞く。

これが質問型のコミュニケーションの基本です。

 

たとえば、ガイドラインの改訂について情報提供したいのであれば、

「先生は今回の改訂をどのように受け止めておられますか?」

と聞いてみる。

製品の使用状況を確認したいのであれば、

「最近、○○薬はどのような患者さんに使われていますか?」

と聞いてみる。

 

この一手を入れるだけで、面談の構造が変わります。

こちらが一方的に話す「説明型」から、

医師自身が考えを言語化する「対話型」へ変わるからです。

そして、医師が話した内容を丁寧に聞けば、

次に何を情報提供すべきかが見えてきます。

これは交渉術としても非常に重要です。

交渉とは、相手を言い負かしたり、

自分の主張を押し通したりすることではありません。

相手の考えやニーズを引き出し、

その情報をもとに双方にとって意味のある着地点をつくることです。

 

医師との面談でも同じです。

「伝える」ことを急ぐのではなく、「引き出す」ことから始める。

この発想を持つだけで、MR・MSLのコミュニケーションは

大きく変わります。

 

 

 

 

明日の面談で使える「説明前の3ステップ」

では、実際の面談でどう使えばよいのでしょうか。

私なら、まず次の3ステップで考えます。

 

①「何を説明するか」を一度横に置く

面談前に、伝えたい情報を整理することはもちろん必要です。

ただし、それを最初から話すことを目的にしません。

「この先生は、このテーマについてどう考えているだろう?」

という問いに置き換えます。

 

②質問を4~5個準備する

質問は、その場で思いつこうとすると難しくなります。

診療方針、患者対応、ガイドライン、新しい治療法、

現在感じている課題など、複数の切り口から質問を準備しておきます。

ただし、質問を機械的に順番どおり聞く必要はありません。

医師の反応を見ながら選びます。

 

③答えの中に出てきた「キーワード」を深掘りする

ここが最も重要です。

医師が「最近は○○を重視しています」と答えたら、

「それは、どのような患者さんで特に感じられますか?」

と一歩掘り下げる。

すると、最初には見えていなかった医師の判断基準が浮かび上がってきます。

 

 

失敗するトークと、うまくいくトーク

失敗しやすいのは、

「今日は○○について重要なデータがありますので、ご紹介させてください」

と、いきなり説明を始めるパターンです。

一方、

「先生、最近○○の患者さんでは、どのような点を重視されていますか?」

と質問し、医師の回答を聞いたうえで、

「ありがとうございます。実は今のお話に関連するデータがあるのですが、

 少しご紹介してもよろしいでしょうか?」

とつなげる。

 

後者なら、情報提供が「売り込み」ではなく、

医師自身が話したテーマに対する情報提供になります。

同じ情報でも、受け取られ方がまったく違います。

 

 

 

 

「話す力」より「聞く力」が、信頼されるMRをつくる

MRやMSLにとって、説明スキルはもちろん重要です。

しかし、説明する前に「聞く」という一手を入れることで、

情報の価値は大きく変わります。

医師は、自分の専門性や判断を尊重してくれる相手には、

より多くの考えを話してくれます。

そして、その会話の中からこそ、本当のニーズが見えてきます。

 

つまり、優れたコミュニケーションとは、

たくさん話すことではありません。

相手が話したくなる環境をつくり、

相手の言葉から次の一手を見つけることです。

 

次の面談では、「何を説明しようか?」ではなく、

「この先生から、今日は何を聞こうか?」

と考えてみてください。

 

その小さな思考の転換が、ディテーリングの質と、

医師との信頼関係を変えるきっかけになるはずです。

 

 

 

医師の信頼を勝ち取るための

質問型交渉術』について

さらに深い学びを始めてみませんか?

 

 

 

 

プロフィール

杉浦敏夫(すぎうら・としお)

1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。

プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。

日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。

数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。

現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。

人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。

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