【説明しない勇気109】平謝りは逆効果?医師の怒りを鎮め、絶対的信頼に変える「謝罪の極意」と魔法の言葉
手配ミス、情報伝達の誤り…「これは失敗した」と思った瞬間の恐怖
製薬業界の最前線で活動する
MRやMSLの皆さん、
そしてチームの活動を支える
マネージャーの皆さん。
多忙な医師との面談や日々の業務の中で、
こんな冷や汗をかくような場面に
遭遇したことはありませんか。
「講演会の手配でミスをしてしまい、
先生の機嫌を完全に損ねてしまった」
「情報の伝達に行き違いがあり、怒った先生から
『もう君の会社の薬は使わない』と突き放された」
「慌てて『申し訳ございません!』と
何度も頭を下げたのに、許してもらうどころか、
かえって火に油を注いでしまった」
誰もがミスを避けて通りたいものですが、
複雑な医療現場と製薬企業の間に立つ
MRやMSLの仕事では、ピンチは頻繁に訪れます。
私自身、製薬会社の現場にいた頃、
配慮不足な提案や連絡ミスで医師を怒らせてしまい、
頭が真っ白になった経験が何度もあります。
その場をなんとか丸く収めようと
「とりあえず平謝り」をして、
余計に関係をこじらせてしまったことも
ありました。
実は、良かれと思ったその「謝り方」が、
医師との関係を永遠に断ち切ってしまう
原因かもしれません。
今回は、絶体絶命のピンチを
「強固な信頼関係」へと逆転させる、
戦略的なコミュニケーションとしての
謝罪の技術についてお伝えします。
謝罪の極意は「技術」ではなく「姿勢」。怒りの感情を「解毒」する
相手の怒りに直面した際、
多くの人が「とにかく謝れば丸く収まる」
と勘違いしています。
しかし、言葉だけで「誠に申し訳ございません」
と頭を下げても、相手の心には全く届きません。
なぜなら、謝罪において最も問われるのは、
言葉選びの“技術”ではなく、
自らの非を認め、相手の感情に寄り添う
“姿勢(人間力)”だからです。
怒りとは単なる感情の爆発ではなく、
「自分の期待が裏切られた」
「自分の価値が軽視された」
という深い失望の表れです。
この怒り(感情の毒)を抜くこと、
つまり「解毒」こそが謝罪の最大の目的となります。
謝罪の専門業者も実践している、
ビジネスパーソンが押さえるべき「謝罪の極意」には
以下の原則があります。
1. 服装は清潔感を重視する
派手なネクタイを避け、白のレギュラーカラーのワイシャツなど、地味で清潔感のある装いで誠意を視覚的に示します。
2. 最初に心からの謝意を述べ、感情面に寄り添う
言い訳を一切せず、相手が不快に感じた「感情」に対して寄り添います。
3. 相手の主張を遮らず、最後まで“聞き切る”:
相手が怒りをぶつけている間は、決して反論や弁明を挟んではいけません。傾聴と共感に徹します。
4. 問題点と具体的な改善策を提示する
「今後気をつけます」ではなく、「なぜ起きたのか」「どう再発を防ぐのか」を明確にします。
5. 最後に、丁寧に感謝を伝える
「この度は貴重なお時間をいただき、また私どもに気づきを与えてくださり、ありがとうございました」と感謝で締めくくります。
謝罪の本質は、自分を守るための言い訳ではなく、
「この出来事を通じて、自分がどう変わり、
より良い関係を築くためにどう行動していくか」
を伝える覚悟の表明なのです。
心の扉を開く「確かに…実は…」の魔法の言葉
謝罪の場で、感情的になっている医師に対して
「論理」で状況を説明しようとするのは
火に油を注ぐ行為です。
医師はプライドが高く責任感が強い人がほとんどです。
単なる事実説明では納得してもらえません。
「感情を吐き出したあとに初めて、
相手はこちらの言葉(論理)を受け取る準備ができる」
——これが、私が長年の交渉現場で学んだ真理です。
そして、相手が感情を吐き出し切った後、
心の“隙間”にスッと入っていくための
最強のコンビネーションが、
「確かに…実は…」という魔法の言葉です。
「確かに」という言葉で相手の怒りや主張を完全に吸収し、
心が空っぽになったタイミングで
「実は」と改善策や事情を自己開示する。
この順序(言葉の設計)を守るだけで、
謝罪の場は一方的なお叱りの場から、
双方向の建設的な対話へと劇的に変わります。
ピンチを「絶対的な信頼」に変える人間力
ミスやトラブルは、誰にでも起こり得るものです。
しかし、そのピンチを迎えたときに見せる姿勢にこそ、
あなたのMR、MSLとしての真価(人間力)が表れます。
一度、深刻なピンチを共に乗り越え、
誠実な謝罪と改善策を示してくれた相手に対し、
人は「この人は本気で自分のことを考えてくれている」
「逃げずに誠実に向き合ってくれる」
という、これまで以上の強固な信頼を抱くものです。
つまり、ピンチは「信頼構築の入り口」であり、
真正面から向き合ってこそ最大の“チャンス”となるのです。
私はピンチに陥った時、
心の中で必ずこう自問するようにしています。
「これは何のチャンスだろうか?」
「この困難から、自分は何を学べるだろうか?」
そして、この成長の機会を与えてくれた出来事に対して、
心の中でそっと感謝するのです。
謝罪の本質は、単なる「終わり」ではなく、
関係性の「再スタート(再起動)」です。
明日からのディテーリングや営業活動において、
もし予想外のミスや厳しいお叱りを受けたなら、
どうか逃げ出さず、恐れずに真正面から
向き合ってみてください。
ど真ん中のストレートな誠意と、
「確かに…実は…」
の質問型コミュニケーションがあれば、
そのピンチは必ず、医師との生涯の絆を創る
「最高のチャンス」へと変わるはずです。
医師の心を開き、関係性を劇的に好転させる
具体的なトーク術や、
ピンチに強いチームを創る実践的な方法について、
さらに深い学びを始めてみませんか?
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
