【説明しない勇気87】販促資料を配るだけのディテーリングを脱却せよ!医師が自然と処方したくなる「6P」を活用した戦略的交渉術
会社から配られた資料を説明するだけで終わっていませんか?成果が伸び悩むMRの盲点
製薬業界の第一線で活躍するMRやMSLの皆さん、
そしてチームの成果を最大化するために
日々の営業管理や現場指導にあたるマネージャーの皆さん。
医師との面談において、このような壁にぶつかり、
焦りを感じたことはないでしょうか。
「本社が作成した最新のプロモーション資材を使って熱心に説明したのに、医師の反応が薄い」
「エビデンスや製品スペックをしっかり伝えたつもりなのに、最後は『分かった、検討しておくよ』と流されてしまう」
「競合他社も同じようなWEB資材やパンフレットを持って訪問してくるため、差がつかない」
どれほど製品知識を深め、洗練された話法で
ディテーリングを行っても、なかなか成果に結びつかない。
私自身、製薬会社で数多くの現場を経験し、
多くのプロモーション活動を分析してきましたが、
同じように悩む担当者にはある決定的な
「共通点」があります。
それは、マーケティングの要素である
「Promotion(販促)」
というたった1つの手段だけに頼り切り、
製品を取り巻く全体像を見失っていることです。
「なぜ、この薬は売れ続けているのか?」
という問いに対して、
「有効性が高いから」
「MRの訪問回数が多いから」
という一面的な見方しかできない
MRやマネージャーは、いつまでも
一方的な売り込みから脱却できません。
今回は、製品が自然と選ばれる状態を設計する
「マーケティング・ミックス(4P・6P)」
の視点を取り入れ、医師の本音を引き出す
戦略的交渉術について解説します。
医療現場と社会をつなぐ「4P」と「6P」――製薬業界特有の構造を解き明かす
マーケティングとは、「売るための活動」ではなく、
モノが自然と「売れていくための仕組みづくり」です。
その基本的な構成要素が
「マーケティング・ミックス(4P)」
です。
製薬業界においては各要素に
独特の制約とチャンスが存在します。
まずは基本となる「4P」を医薬品に即して
捉え直してみましょう。
・Product(製品):
単なる「有効成分」や「剤形」の特徴だけではありません。
高い科学的エビデンス、服薬アドヒアランスの向上、
キーメッセージやブランドの信頼性までを含めた
「付加価値の塊」です。
・Price(価格):
単純な製品価格ではなく、国が定める「薬価」、
卸への「仕切価」、そして近年ますます重視される
「費用対効果(医療経済性)」や
患者さんの自己負担額まで含めた多層構造です。
・Place(施設・流通):
医療機関や調剤薬局、医薬品卸との連携体制です。
昨今のジェネリック医薬品の供給不安に象徴されるように、
「処方された薬が確実に手に入る安定供給の物流インフラ」
そのものが大きな価値となります。
・Promotion(販促):
MRによるディテーリング、eディテール、オウンドメディア、
講演会、論文、さらには生成AIを活用した
個別化コミュニケーションなど、多様な情報提供手段を指します。
そして、製薬業界の戦略を真に強固なものにするためには、
この4Pに
「Politics(政治・制度)」と「Public Opinion(世論)」
という2つのPを加えた「6P」の視点が不可欠となります。
・Politics(政治・制度):
薬価制度の改定、診療報酬、DPC(診断群分類別包括評価)、
地域医療構想など、医療行政の動きは医師の処方行動や
病院経営に直結します。
・Public Opinion(世論):
副作用に関する報道、患者団体の発言、
SNSや動画メディアによる口コミなど、
世論のトレンドが医師や患者さんの意識を
大きく左右します。
この「6P」という全体枠組みを持つことで、
自分の担当製品が「医療現場」と「社会」の
どのような文脈の中に置かれているのかを
立体的に把握できるようになるのです。
「何をやらないか」を決める眼。質問型交渉術で「P」のボタンを押し分ける
マーケティング・ミックスは、いわば
戦略の「オペレーションパネル(操作盤)」です。
成功するMRやMSLは、すべてのボタンを
均等に押そうとはしません。
自社の限られたリソースを
どのPに集中投下し、どのPを捨てるか?
を冷静に見極めています。
戦略とは「何をするか」以上に、
「何をやらないか」を決めることだからです。
そして、この6Pの視点は、
日々のディテーリングにおける
「質問型交渉術」の最高の武器になります。
単なる情報伝達者から「価値創出のパートナー」へ
本社の方針や上司の指示通りに資材を配布し、
製品説明を繰り返すだけの
MRの時代は終わりを告げました。
過酷な規制や環境変化が存在するからこそ、
戦略的な思考を備えた担当者だけが、
医師から選ばれ続けることができます。
- 「Promotion」だけに依存せず、「6P(4P+政治・世論)」の立体的な視点で戦略を描く
- 「何をやらないか」を整理し、自校の製品が最も輝く「P」のボタンを冷静に見極める
- 制度や環境の変化(Politics・Placeなど)を質問型話法で問いかけ、医師の潜在ニーズを引き出す
あなたが現場のリーダーやマネージャーで
あるならば、部下に
「このパンフレットを1日〇件見せてこい」
と指示するのを今すぐやめてみてください。
代わりに、
「この製品は6Pのどのボタンを押せば、あの病院の課題に届くだろうか?」
と問いかけてあげてください。
その一言が、メンバーを単なる
「情報伝達者」から、自ら戦略を描く
「価値創出のパートナー」へと
成長させるきっかけとなるはずです。
売るのではなく
「売れていく仕組み」
を頭の中に描き、
問いかける力(スキル)を磨くこと。
その誠実で知的なアプローチこそが、
どのような環境変化の中でも
医師との深い信頼関係を築き上げる
確固たる礎となるでしょう。
マーケティングの「6P」を
実際のディテーリングに落とし込む
具体的なトークスクリプトの作成法や、
医師の意思決定プロセスを鮮やかに解き明かす
「質問型交渉術」の技術について、
さらに深い学びを始めてみませんか?
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
