【説明しない勇気89】「マーケティング思考」×「質問型交渉術」。現場のMRが医師から指名される極意
本社の戦略通りにディテーリングしても「検討しておきます」で終わってしまう本当の理由
製薬会社のMRやMSL、MA担当者の皆さん、
そして日々現場の指揮を執るリーダーの皆さん。
医師との面談において、次のようなもどかしさに
直面したことはないでしょうか。
「本社から降りてきたプレゼン資材とキーメッセージを使って
完璧に説明したのに、医師の反応が薄い」
「最新のエビデンスをロジカルに伝えたつもりなのに、
最後は『分かった、検討しておくよ』と流されてしまう」
「競合他社も同じような資材を持って訪問してくるため、
自社製品の強みが全く差別化できない」
どれほど製品知識を深め、洗練されたトークで「説明」を行っても、
処方や推奨に結びつかない。
私自身、製薬会社のプロダクトマネージャーを務めていた当時、
「これほど科学的に優れた薬剤なのに、
なぜ現場で思うように選ばれないのか?」
と大きな葛藤を抱えていました。
そして多くの営業現場を分析して分かったのは、
本社の描く「仮想の地図」と、現場の「実際の地形」との間に
深いズレがあるという事実です。
本社の戦略をそのまま棒読みするだけの
「情報伝達者」から脱却し、現場で自ら
「選ばれる仕組み」を創り出すこと。
それこそが、医師から選ばれ続ける
プロフェッショナルへの第一歩なのです。
単なる「説明」を卒業し、自然と「選ばれる仕組み」を創るマーケティングの3大思考
マーケティングの父フィリップ・コトラーは、
「マーケティングの理想は販売を不要にすることである」
と述べました。
つまり、MRが必死に売り込まなくても、
医師が自ら「この薬が必要だ」と納得して
選んでくれる状態をデザインすることこそが
マーケティングの本質です。
特に制約の多い製薬業界において、
この「選ばれる仕組み」を構築するには、
3つの基本フレームワークを
製薬業界特有の視点で捉え直す必要があります。
1. 顧客・競合・自社を立体的に捉える「3C分析」
製薬における「Customer(顧客)」は
医師だけでなく、薬剤師・患者・卸を含めた多層構造です。
また「Competitor(競合)」は同じ効能の他社薬だけでなく、
別作用機序の治療薬やジェネリック、
さらには非薬物療法まで含まれます。
これらを広く捉え、
「自社(Company)」の強みと交差させることで、
他社が満たせていない「本当の市場機会」が見えてきます。
2. 弱みを機会に変える「クロスSWOT分析」
単に、強み(S)・弱み(W)・機会(O)・脅威(T)
を整理して表を埋めるだけでは意味がありません。
たとえば「薬価が高い(W)」という弱みがあっても、
「診療報酬改定での加算(O)」という
外部環境と掛け合わせる(W×O)ことで、
「患者さんの長期的な負担軽減とアドヒアランス向上を両立する戦略」
へと逆転させることができます。
3. 医療現場と社会を包み込む「6P(マーケティング・ミックス)」
伝統的な4P(製品・価格・流通・販促)に、
製薬業界では
「Politics(政治・制度)」と「Public Opinion(世論)」
を加えた「6P」で戦略を捉えます。
診療報酬改定やDPC、患者団体の動きやSNSのトレンドなど、
社会の文脈を把握することで、
単なる製品説明を超えた多角的なアプローチが可能になります。
「やらされ感」を捨てる!現場のMR・MSLが今日から実践できる4つの行動
どれほど本社が優れたマーケティング戦略を掲げても、
それを現場で実行する皆さんに「熱」と「技」がなければ、
製品は売れていきません。
むしろ、現場のリアルな臨床ニーズに合わせて戦略を
自分事として考え、補正する力こそが求められています。
成果を上げ続ける担当者が実践している
「4つの行動ステップ」をご紹介します。
① 「あなた自身の3C」を分析する
本社の市場分析を鵜呑みにせず、
自分が担当するエリアや施設に当てはめます。
「目の前の医師(Customer)」
「その施設での競合薬の処方状況(Competitor)」
「自分自身の強みや自社リソース(Company)」
を交差させ、自分が注力すべき独自のターゲットを絞り込みます。
② 「あなた自身」をクロスSWOT分析する
自社製品のスペックだけでなく、
自分自身の強み(KOLとの関係性や学術知識など)と
エリアの機会を掛け合わせ、
「自分が取るべき攻め方」をクリアにします。
③ 手の届く「P(主にPromotion)」に集中する
価格や制度を変えることはできなくても、
どの情報(資材)を、どの順番で届けるかという
「Promotion(販促・コミュニケーション)」
の選択は、皆さんの手の中にあります。
④ 「Promotion」の質を「質問型交渉術」で極限まで高める
本社から渡されたパンフレットを
一方的に説明するプレゼンを今すぐやめて、
相手の臨床課題を引き出す
「質問型交渉術」へと切り替えます。
本社の戦略に「熱」と「技」を吹き込み、医師から選ばれる価値の伝道者へ
本社の戦略に「やらされ感」を抱いて動くのか、
それとも自ら仮説を立て、質問型交渉術を用いて
医師の意思決定プロセスに寄り添うのか。
この姿勢の差こそが、医師からの絶対的な信頼を生み出します。
- 本社の戦略を「仮想の地図」と捉え、現場のリアルな地形に合わせて自分自身でアレンジする
- 3C・SWOT・6Pの視点を「自分と担当エリア」に当てはめ、勝てる戦場を自ら見極める
- 「質問型交渉術」を軸にPromotionの質を高め、一方的な説明から双方向の「お役立ち対話」へ転換する
「できる人」が最初から特別なスキルを
持っていたわけではありません。
現場で悩み、仮説を立て、目の前の医師と誠実に向き合い続けた
「やる人」が、徐々に戦略的な交渉力を身につけていくのです。
明日からの訪問やWEB面談に向けて、
まずは「今日、目の前の先生から引き出したい本音は何か?」
という問いを自分に投げかけることから始めてみてください。
あなたのディテーリングに主体的な熱と技が宿ったとき、
医師はあなたを信頼できる
最高のパートナーとして選んでくれるはずです。
現場のコミュニケーション力を飛躍的に高め、
医師から「あなたと話すと新たな気づきがある」
と言われるための具体的な「質問型トークの組み立て方」や、
チーム全体の戦略思考を磨く実践的な取り組みについて、
さらに深い学びを始めてみませんか?
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
