【説明しない勇気95】MSLの「売らない姿勢」と「医師のタイプを読む力」が、対話の質を変える
「何を話すか」より「何を聞くか」
MR・MSLが医師との面談で成果を上げるためには、
「説明すること」から「質問すること」
へ思考を切り替えることが重要です。
医師は、製薬会社から一方的に
情報を受け取る存在ではありません。
その情報が自分の診療や患者さんにとって
価値があるのかを、自ら判断する専門家です。
だからこそ、
「今日は何を説明しようか?」
ではなく、
「今日はこの先生から何を聞こうか?」
と考える。
質問によって医師の考え方や判断基準を知ることができれば、
その後の情報提供は、単なる営業トークではなく、
相手のニーズに沿った対話になります。
今回は、そこからさらに一歩進めて、
MSLの役割、そして医師ごとのタイプや
思考傾向を踏まえたコミュニケーションについて考えてみます。
MSLは「説明する専門家」ではなく「科学的対話をつくる専門家」
MSLについて、私は社内外で一つ気になる誤解があります。
それは、「MSLは営業をしないMR」「学術情報を詳しく説明する人」
という捉え方です。
確かにMSLには高度な医学・科学的知識が求められます。
しかし、その知識を一方的に説明することが
MSLの本質ではありません。
むしろ重要なのは、医療現場と製薬企業との間にある
医学的なギャップを埋めることです。
医師からアンメット・メディカル・ニーズを聞き出す。
研究上の課題について意見交換する。
最新の医学的知見について議論する。
そして、そこで得られた声を社内へフィードバックする。
ここでも、鍵になるのは「質問」です。
たとえば、医師に対して、
「現在、この領域で最も解決すべき課題は何でしょうか?」
「先生が今後、研究で明らかにしたいと考えているテーマは何ですか?」
と問いかける。
すると、単に文献を説明するだけでは得られない、
医師自身の問題意識や研究上の関心が見えてきます。
MSLの価値は、持っている知識の量だけで決まりません。
どのような問いを投げかけ、どのような医学的対話を生み出せるか。
そこに専門職としての大きな価値があります。
そして、この「科学性」と「独立性」は非常に重要です。
MSLが営業部門の延長として見られてしまえば、
医療者からの信頼を失う可能性があります。
「売るために話しているのではない」という信頼があるからこそ、
医師も本音を話しやすくなる。
これはMRとは異なるMSLの重要な強みです。
同じ説明でも、医師によって「響き方」が違う
もう一つ、医師とのコミュニケーションで意識していただきたいのが、
「相手にはタイプがある」という視点です。
私は医師を理解するための便宜的な分類として、
6つのタイプを考えています。
患者さんへの実用性を最優先する「医者タイプ」。
エビデンスや理論を重視する「学者タイプ」。
新規性や研究テーマに関心が強い「研究者タイプ」。
学会や医師会などでの影響力を重視する「政治家タイプ」。
経営や経済合理性を意識する「経営者タイプ」。
そして、業務効率や負担の少なさを重視する「サラリーマンタイプ」です。
もちろん、実際の医師が完全にどれか一つに分類されるわけではありません。
一人の医師の中に複数の要素が存在します。
重要なのは分類そのものではなく、
「この先生は何を大切にしているのか?」という視点を持つことです。
たとえば、研究者タイプの医師に
「実際の患者さんで使いやすいですよ」
と繰り返しても、それだけでは強い関心を引けないかもしれません。
逆に、研究仮説や新しい作用機序について質問すれば、
そこから一気に会話が深まる可能性があります。
経営者タイプなら、診療所や病院の運営、患者満足、
コストなどについて質問する。
サラリーマンタイプなら、診療負担や業務効率について聞いてみる。
つまり、相手に合わせて話を変える前に、
相手が何を重視しているのかを質問で探るのです。
診療科を「先入観」ではなく「仮説」として使う
さらに、面談準備では診療科も一つのヒントになります。
外科なら、迅速な判断や実践性を重視する傾向があるかもしれません。
内科なら、慎重にデータを確認しながら論理的に判断する医師が
多いかもしれません。
循環器内科なら、理論と技術の両面を重視する。
糖尿病・内分泌領域なら、長期的な治療経過や継続的な関係構築が重要になる。
こうした傾向を知っておくと、面談前の仮説を立てるうえで役立ちます。
ただし、ここには大きな注意点があります。
「この診療科だから、このタイプだ」と決めつけないことです。
診療科による傾向は、あくまで最初の仮説です。
本当に知りたいのは目の前の先生が何を考え、何を重視しているか。
その答えは、肩書や診療科ではなく、実際の会話の中にあります。
だからこそ質問する。
「先生は○○について、どのようにお考えですか?」
「実際の診療では、どのような点を重視されていますか?」
「その判断をされる際に、一番大切にされていることは何でしょうか?」
こうした問いを重ねれば、次第にその医師独自の「思考の土台」が見えてきます。
明日の面談で使える「医師理解」の3ステップ
では、実務ではどう使えばよいのでしょうか。
私は、面談前に次の3つを考えることをお勧めします。
①診療科から「仮説」を立てる
「この先生は何を重視する可能性があるだろう?」と考えます。
ただし、これは答えではなく仮説です。
②質問によって仮説を検証する
「先生は○○について、どのように判断されていますか?」
と質問し、実際の反応を見ます。
ここで自分の予想と違っていても問題ありません。むしろ、
その違いこそが重要な情報です。
③答えから次の質問をつくる
医師が「患者さんの負担を減らすことを重視しています」と話したなら、
「具体的には、どのような場面で負担を感じる患者さんが多いでしょうか?」
と掘り下げる。
この繰り返しによって、表面的なニーズから、
本当の判断基準へ近づいていきます。
失敗する面談と、成果につながる面談
失敗しやすい面談は、
「この先生にはこの資料を見せればいい」
と最初から結論を決めてしまいます。
一方、成果につながる面談では、
「この先生は何を重視しているのだろう?」
という仮説を持って訪問し、質問によって確認していきます。
前者は「資料に医師を合わせる」コミュニケーションです。
後者は「医師の思考に情報を合わせる」コミュニケーションです。
この違いは非常に大きいものです。
「相手を読む」のではなく、「相手に聞く」
MR、MSL、MAのコミュニケーションで、最も避けたいのは
「医師を決めつけること」です。
診療科、年齢、肩書、過去の反応だけから、
「この先生はこういう人だ」と判断してしまう。
しかし、人はそれほど単純ではありません。
研究者としての顔を持ちながら、診療では患者さんを
最優先する医師もいます。
経営者として病院を考えながら、医学的には非常に慎重な医師もいます。
だから、タイプ分類は「相手を決めつけるための道具」ではありません。
相手を理解するために、自分の視野を広げる道具なのです。
そして、最も確実な理解の方法は、相手に聞くことです。
交渉術の本質は、相手を動かすことではありません。
相手の考えを理解し、その考えを尊重しながら、
意味のある対話をつくることです。
MRなら、情報提供の前に質問する。
MSLなら、科学的知識を説明する前に、医師の問題意識を聞く。
MAやマネージャーなら、現場の声を「自分たちの都合のよい解釈」に変換せず、
まずその背景まで聞く。
この姿勢が、製薬業界におけるコミュニケーションの質を高めます。
そして、ぜひ次の面談で一つだけ試してみてください。
「この先生に何を説明しよう?」という問いを、
「この先生は何を大切にしているのだろう?」に変えてみる。
その問いを持って医師の言葉を聞くと、
これまで見えていなかった情報が見えてくるはずです。
「話す力」を磨くことも大切です。
しかし、相手の言葉を引き出す「聞く力」と「質問力」を磨いたとき、
MR・MSLの対話力は、もう一段上のレベルへ進んでいきます。
医師の信頼を勝ち取るための
『質問型交渉術』について
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プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
