【説明しない勇気91】症例登録が止まる原因は「欲張りすぎ」?医師が自ら協力したくなる臨床試験の「4P設計」と質問型交渉術
「先生、登録をお願いします」と頭を下げても進まない。臨床試験の停滞に頭を抱えていませんか?
製薬会社で臨床試験や特定臨床研究の推進を担う
MSLやMA、開発担当者の皆さん、
そして現場で医師との接点を担う
マネージャーの皆さん。
プロジェクトを進める中で、このような
「深刻な手詰まり感」
に直面したことはないでしょうか。
「先生に試験の意義を説明し、『前向きに検討するよ』
と言ってもらえたのに、待てど暮らせど症例登録が進まない」
「協力施設を増やしたはずなのに、現場の医師から
『日常診療が忙しくて手続きに手が回らない』と後回しにされてしまう」
「目標症例数に遠く及ばず、社内から『いつになったらデータが揃うのか』
と強烈なプレッシャーを受けている」
どんなに革新的なコンセプトを持つ臨床試験であっても、
症例登録が進まなければデータは得られず、
申請や論文発表は遅れ、最悪の場合は
試験の中止という悲劇すら起こり得ます。
私自身、かつて大規模臨床試験に立ち上げた際、
初動の症例登録が大きく遅れ、
「このままでは試験が倒れてしまう」
と激しい焦りと冷や汗をかいた苦い経験があります。
当時は「医師の熱意が足りないのではないか」と
相手のせいにしてしまいそうになりましたが、
それは大きな間違いでした。
失敗の本当の原因は、医師のモチベーション不足ではなく、
「症例が自然と登録される仕組み=マーケティング視点」の欠如
にあったのです。
今回は、臨床試験を停滞させる壁を打ち破り、
医師が自ら進んで協力したくなる
「臨床試験の4P設計」と質問型交渉術について解説します。
臨床試験はデータ収集ではなく「マーケティングの起点」。4Pで解き明かす成功のメカニズム
我が国で実施される臨床試験は、
承認申請のための治験、製造販売後臨床試験、
医師主導治験、特定臨床研究など
多岐にわたり、薬機法やGCP、臨床研究法といった
厳格な法規制のもとで運用されています。
多くの人が臨床試験を
「単なるデータ収集の作業」として捉えがちですが、
私の経験上、臨床試験とは
「医薬品マーケティングの起点」そのものです。
試験の設計・実施段階から医師と良好な関係を構築し、
製品コンセプトへの深い理解を促し、
医療界に認知を形成していくプロセスは、
上市後の市場獲得やディテーリングの成功に直結する
“極めて戦略的なフェーズ”です。
臨床試験の成否が、そのまま製品と企業の命運を左右する
と言っても過言ではありません。
では、症例登録が進む「売れていく仕組み」ならぬ
「登録が進む仕組み」をどう構築すべきか。
ここで有効なのが、マーケティング・ミックス(4P)の視点です。
1. Protocol(プロトコール=製品・価値)
臨床試験の失敗の多くは、研究者の
「あれもこれも検証したい」という
「欲張り過ぎ」にあります。
評価項目や検査時期を詰め込みすぎると、
現場の医師や患者さんの負担が増大します。
必要のない評価項目を極限まで削ぎ落とし、
日常診療のフローの中で完結できる
シンプルなプロトコールに磨き上げることが最重要です。
2. Price(コスト・予算設計)
実施施設への適切な研究費、医師への適正な謝礼、
患者さんの負担軽減費(アローワンス)、
さらにはCROやSMOへの委託費用など、
現場がスムーズに動くためのコスト構造を最適化します。
3. Place(試験実施施設・体制)
研究代表医師や分担医師の選定だけでなく、
試験事務局やコアラボなど、現場の医師が
「これなら手続きの負担が少ない」
と実感できる強力なサポート体制を整えます。
4. Promotion(症例登録推進・情報発信)
ただ待つのではなく、登録促進のための
研究会や勉強会の開催、医学雑誌や学会での
メソッドペーパーの発表、患者パネルの活用、
ホームページやPR活動など、
多角的なコミュニケーションを展開します。
心理学において、人間は行動を起こす際の
「選択の複雑さ」や「作業の負担(摩擦)」が大きいと、
無意識に意思決定を先送りする傾向があります。
プロトコールの欲張り過ぎを捨て、
4Pの観点から徹底的に
「登録の心理的・物理的ハードル」を下げることこそが、
症例登録を劇的に加速させる鍵なのです。
「説得」を捨てて「ハードル」を聞き出す。質問型話法で医師の本音を引き出す交渉術
どれほど洗練された4P設計を行っても、
最終的に臨床試験への協力を決め、
実際に目の前の患者さんを登録してくれるのは
現場の医師です。
ここで多くのMSLやMRが陥る失敗が、
試験の意義やプロトコールの素晴らしさを
熱っぽく一方的に「説明(プレゼン)」してしまうことです。
「この試験は学術的に極めて重要です!ぜひ1例でも多くお願いします!」
と説得しようとすればするほど、医師は
「手間がかかりそうだな」
と身構えてしまいます。
必要なのは、説明ではなく、
医師が症例登録を躊躇している
本当の理由を鮮やかに引き出すこと。
そのためにも、これまでお伝えしてきた
「質問型交渉術」が非常に有効なのです。
臨床試験から始まる製品ストーリー。組織の垣根を越えて信頼を創り出すプロへ
臨床試験とは、医師や患者、そして社会に向けて、
その医薬品の「科学的意義」と「社会的信頼性」を
正しく示すための大切なプロセスです。
- 臨床試験をデータ収集ではなく「製品ストーリーの始点(マーケティング)」として再定義する
- 欲張り過ぎたプロトコールを削ぎ落とし、「4P」の視点で症例登録が自然に進む仕組みを作る
- 一方的な説明を捨て、質問型交渉術で医師が抱える登録への「真のハードル」をヒアリングする
プロトコールの妥当性、運営体制の滑らかさ、
そして企業側の誠実な協働姿勢のすべてが、
試験結果そのものや、その後の製品価値を大きく左右します。
だからこそ、開発、MA、MSL、
そして営業(MR)といった組織の垣根を越え、
「現場の医師が最もスムーズに協力できる体制とは何か?」
という共通の意識を持って取り組むことが不可欠なのです。
ルールや制約が多い環境だからこそ、
相手の立場に立ち、問いかけを通じて課題を解決していく
「質問型交渉術」のスキルが真価を発揮します。
明日からの協力施設への訪問やオンライン面談に向けて、
まずは「先生、登録にあたって何が一番のハードルになっていますか?」
と、相手のリアルな声に耳を傾けることから始めてみませんか?
臨床試験の推進力を飛躍的に高める
「質問型トークスクリプトの設計法」や、
組織全体のマーケティング思考を底上げする
実践的なコンサルティングについて、
さらに深い学びを始めてみませんか?
プロフィール
杉浦敏夫(すぎうら・としお)
1965年、長野市生まれ。名古屋大学工学部卒業後、国内の製薬会社に入社。
プロダクトマネージャーとして大型新薬の上市を手がけた後、学術部、プロダクトマーケティング部、臨床開発部、教育研修部の部長、営業部門では東京支店長などを歴任する。
日本人を対象としたエビデンス構築の必要性に着目し、多くの臨床試験の企画・運営を主導。そのうち代表的な2つの研究の結果は、国際的に権威のある医学専門誌に掲載され、国内の診療ガイドラインにも引用されている。
数多くのトップ・オピニオン・リーダーとの対話を通じて「質問の力」の本質に触れ、営業力強化の分野で著名な「質問型営業®」開発者・青木毅氏に師事。
現在は、第一線で活躍する営業職やマネージャーを支援する取り組みに注力している。趣味はカメラ、ソフトボール、ゴルフ、温泉旅行。
人気PodCast番組『青木毅の質問型営業』に著者として出演(第540回, 2025年9月19日配信)。
